超!異世界転生 ④
二人は城への道を走っていた。否、正確には、サリエを背負ったアドマイアが走っていた。
「城への道はこんなにも整備されていたのだな」
「竜人どもは馬を使って村に来るからな。繰り返し来るのだから、整備もされているだろう」
「それもそうか」
「お前、馬よりも速いんじゃないか?」
アドマイアの腰には剣が携えられていた。
竜人の国の門は巨大で、その前には門番が二人立っていた。アドマイアは気に留めることもなく、その間を突き抜けた。アドマイアの足はあまりにも速く、門番たちは何が起きたのかすらわからなかった。
城下町に入ると、アドマイアはサリエを背中から下ろした。
「この中に、村人を殺した者はいるか」
サリエは四方にぐるりと手をかざすと、首を横に振った。
「いない。ここにいるのはただの民衆だ。人間を見下し憎しみを向けている者はそれなりにいるようだが な」
「そうか」
「すべては王の仕業だ。王が民衆を扇動した」
「そうか」
「恐らく、村人を殺した奴らは城の中に集まっている」
その時、何かが空を切って飛んできた。拳よりも大きい、決して小さくない石だった。遠くで「人間だ!」と声が上がった。
アドマイアは片手で石を受け止めると、そのまま手を握りしめ粉々に潰した。その光景を目にした竜人たちは、無言で道を開けた。
城へ着くと、跳ね橋が二人を阻んだ。サリエが言う。
「橋が降りるまで待とう。きっと近いうちに内に誰かが通るだろう」
しかしアドマイアは周囲を見渡し、「その必要はない」と力強く言った。
「サリエ、背中に捕まれ。絶対に離すなよ」
「はあ?」
そう言ってサリエを背中に乗せると、アドマイアは城壁の近くにある大木に上り、身体を揺らし始めた 。そして大木がしなり、城に向かって大きく勢いづいた瞬間、アドマイアは力強く跳び上がった。サリエを乗せたアドマイアの身体は飛んでいき、見事! 城壁の縁を掴んだ!
それから壁を伝って内部に降りると、アドマイアはサリエを背中から静かに降ろした。
「しっ、死ぬかと思ったッ!」
地面にへたり込むサリエに、アドマイアは笑みを見せた。
「よくぞ振り落とされなかった! お前ならできると信じていたぞ、サリエ!」
「私は室内族だッ……無理をさせるなこの馬鹿者!」
「悪かった。すぐにでも、仲間を傷つけた連 中を片付けたくてな」
「……ふん、まあいい。さっさと行くぞ」
城の入口には二人の門番がいた。アドマイア達は隠れもせず、堂々と彼らに向かって行った。
「お、女!? 誰だ貴様らは!」
「サリエ、彼らは?」
「今回の虐殺には関わっていないが、拉致した人間を日常的に殴って憂さ晴らしをしている」
「そうか」
アドマイアは目にも止まらぬ速さで剣を抜くと、さっと二人の門番の首を切り落とした。アドマイアは振り返ることもせず、ゆったりとした足取りで城の中へ歩を進めた。
城内に入ると、突然の予期せぬ侵入者に驚く何人もの竜人が、呆然とした顔でアドマイア達を見た。「侵入者だ!」竜人がそう叫ぼうとした瞬間、アドマイアは剣を投げ一人の喉に突き刺し、それと同時に走り出し、別の竜人の首を掴んで折り、さらに近くにいた竜人の首を蹴り上げた足で刎ね飛ばした。しかし遠くの竜人までは届かず、彼らはけたたましい警報を鳴らした。すぐに十数人もの竜人兵士たちが集まった。
「人間だ! 殺せーッ!」
何人もの竜人がアドマイ ア達に向かってきた。アドマイアは剣を回収すると、サリエに一つの傷をつけることもなく、次々に襲いかかってくる竜人達の首を的確に切り落としていった。剣を振り回しながらアドマイアは、直立したままのサリエに聞く。
「なあサリエ、ついうっかり殺してしまったが、問題なかったか?」
「安心しろ、こいつらは全員、何らかの形で人間に危害を加えている」
「そうか、それは安心した」
「この城にいる奴ら全員殺して構わない」
「わかった」
アドマイアは剣を振り回し続けた。
敵の首を全て落とし終えると、先ほどまでの騒ぎが嘘のように、静けさが訪れた。しかしアドマイアの耳は捉えていた。城の最上階で走る者達の足音と、部屋の奥で、恐怖に震えながら息を潜める者の気配、捕えられた人間の、困惑に満ちた気配を。
廊下を進んでいると、サリエがある扉の前で足を止めた。
「この中に、セトナを殺した者がいる」
アドマイアの脳裏に、破られた天文の書と、傷つき、横たわるセトナがよぎった。アドマイアは一瞬、精神的な苦痛に顔を歪めたが、すぐに力強い目つきに変わり、扉を蹴破った。中には三人の竜人がいた。竜人達は恐怖に満ちた目で アドマイア達を見る。サリエは一人ずつ竜人を指差し言った。
「こいつはデズ。暴行の主犯格。やろうと言い出したのもこいつだ。殴って、犯して、やりたい放題だ。こいつはルド。人一倍他者の知性に憎しみを抱いている。セトナの書いた文章を破ったのはこいつだ。当然、暴行にも加わっている。で、そっちにいるのはバル。二人がやっているから自分もやったというだけの、まあ、つまらない奴だな。それなりに暴行を楽しんでいたようだが」
「なっ、な、なんだァお前達はッ!」
「アドマイア、こいつらの名前と罪状を書き記しておいてやろうか? 醜聞として後世にまで伝えるのだ」
「くだらぬ悪人の名前など、記録するに値しない」
「そうか? まあいい」
「てっ、テメェ、調子に乗んじゃあ……」
竜人の一人が、震えながら斧を持ってアドマイアに飛びかかった。しかしアドマイアはこれをひらりと避け、竜人の首に手刀を入れた。竜人の首はアドマイアの手によって直角に折れ、そのまま絶命した。
それからアドマイアは残りの二人の元へ歩み寄ると、気圧される彼らの首を静かに掴み、上に持ち上げた。
「ぐ……ぐるし……」
「貴様らを殺すのに剣など要らぬ」
アドマイアはたっぷり時間をかけて二人を窒息させたのち、手を離した。
「貴様らに名誉の死など、永遠に訪れぬ」
二人の絶命した竜人が、床に倒れ込んだ。
次なる対象を探すため、アドマイアとサリエが廊下を進んでいると、風を切る音と共に背後から矢が飛んできた。アドマイアは振り返ることなく、それを片手で受け止める。目線を戻すと、驚きの表情を浮かべた竜人の子供がいた。自ら放った矢が掴み取られたことに、ただ呆然としている。
「子供……? なぜここに」
次に子供は短剣を取り出すと、決死の表 情でアドマイアに向かってきた。
「うおおおーーーーーーーーーっ! あっ」
アドマイアは体をひねり躱すと、子供の腕を軽く掴み捻り上げた。
「いでででででででで!」
「アドマイア、こいつはセトナを殺した男の子供だ」
「そうか。ならば……」
アドマイアは子供に向かって言った。
「よく覚えておけ。お前の父親は罪の無い人間を陵辱し、殺した」
しかし子供は震えながら叫んだ。
「にっ、人間相手にやったんだろ? ならそれって、良いことじゃないか!」
それを聞いてアドマイアは子供を、しかしサリエが制した。
「待て、子供だ」
「そうだな」
アドマイアはぽつりと言うと、大きく開いた目で子供の目を見て、地獄のような声で言った。
「殺すのは十年待ってやる。その間にお前が自分で何を言ったのか、よくよく考えることだな」
そして付け加えた。
「狙ったのが私であったことは褒めてやろう。もしもそこの魔術師を少しでも傷つけていたら、お前の命はなかったぞ」
子供は地面にへたり込み、立ち上がる様子はなかった。
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「アテラ!」
「アドマイア!」
アドマイア達は、部屋の中で鎖に繋がれているアテラを発見し、声を上げた。
「生きていたか!」
「ああ……肉体はな」
「肉体は?」
「話は後だ。それよりも、外で何が起こっている? 生憎この鎖のせいで音しか届かないが、どうにも賑やかなようだな」
「それはだな」
サリエが口元を歪め、楽しげに答えた。
「こいつが竜人を殺して回っているのだ」
アドマイアは不服そうにサリエを一瞥する。
「何がおかしい」
「あの性根の腐り切った竜人を殺してまわっているのだぞ、これが笑わずにいられるか」
「気持ちの悪い奴だな」
アドマイアはアテラの鎖を引きちぎった。アテラは感心したように「流石の怪力だ」とアドマイアを見た。
「ところでアドマイア、サリエ。ダグという竜人の男を見なかったか?」
「いいや、知らないな」
「そうか。よければ、その男を見つける手伝いをしてくれないか?」
「いいぞ、どうせ全員殺すからな。しかし、何故その男を?」
「私の尊厳を、あの男は踏みにじった。けじめをつける必要がある」
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「クソッ、なんだよ、なんだよあの人間!」
荒い息を吐きながら、ダグは最上階への階段を駆け上がっていた。
「クソッ、クソッ」
ダグは走っていた。
「人間の中に強い奴がいるとは聞いていたが、あんなに強いとは聞いていない!」
最上階に辿り着くと、ダグは部屋中の布を掻き集め、即席の落下傘を 作り上げる。そして、ためらうことなく窓から飛び出した。
「女は置いてきちまったけど、非常時だ、仕方ねえよな」
落下傘を使って飛び降りるのは、ダグにとって人生で初めてのことだった。ただ無事に着地することだけを考え、必死に布を操作する。
そうして着地した先には、
「……女?」
アドマイアとサリエ、そしてアテラがいた。
アテラは剣を腰に携え、一歩前に進み出て言った。
「貴様、よくも私を陵辱してくれたな。剣の錆にしてくれる」
「はっ? お前、は? どういう……」
言い終わる間も無く、アテラは目にも止まらぬ速さで剣を抜き、次の瞬間には、二十等分にされたダグの塊が出来上がっていた。断面から血が噴き、バラバラと肉の塊が崩れ落ちていく。
「見事な剣技だ……」
アドマイアが、思わず感嘆の声を漏らす。一方でサリエは露骨に顔をしかめた。
「げ……アドマイアの殺し方はもう少しこう……原型を留める感じだったぞ」
サリエは苦々しい顔で言った が、アドマイアは構わずアテラへと問いかける。
「アテラ、奴に後悔する時間は与えなくてよかったのか?」
「いい。一刻も早く殺したくてたまらなかったんだ」
アテラは静かに剣を鞘に収めた。しかし次の瞬間、アテラの表情が歪んだ。そして堪えきれず、その場に崩れ落ち、声を震わせた。
「アドマイア……どうしよう、私は……妊娠しているかもしれない、妊娠などしていたら、私はどうしたらよいのだ……」
「アテラ……」
「私は子など産みたくない! ましてやあんなに気持ちの悪い屑との子など! クソ、私が女でさえ なければ!」
アテラは顔を伏せ、地に向かって叫んだ。あまりにも絶望に満ちた嘆きだった。アドマイアは必死にかける言葉を探すが見つからず、ただただ沈痛な面持ちで立ち尽くした。しかしサリエは違った。サリエはいつもの淡々とした調子で言った。
「安心しろ。私は薬も少しわかる。苦痛なく堕ろせる薬を作ってやろう。お前は自分の性別を恨む必要などない」
「なんだと……?」
アテラは信じられないという顔でサリエを見上げた。その言葉に、アドマイアは顔を輝かせた。
「サリエ! そんなことができるのか!」
しかしアテラは、依然として不安げな顔のままだった。
「サリエ、お前は、堕胎を肯定するのか? 命を、殺すのだぞ?」
「望まない命なのだろう? 仮に妊娠していたとして、産むのはお前だ。お前の選択を尊重しよう」
「サリエ……!」
アテラの顔が明るくなる。アテラは目を潤ませ、サリエの手を取って、力強く握った。
「うわっ」
「私はお前のことをずっと誤解していた。見直したぞ、サリエ!」
「はあ?」
「ありがとうサリエ! 本当に感謝するぞ、サリエ! サリエ!」
「なんなんだお前は!?」
この瞬間、二人の間に固い友情が生まれた。その様子を、アドマイアは満足げに眺めた。
その後もアドマイアは、捕えられた人間達を解放しながら、隠れている竜人を見つけては次々と殺していった。母親を殺した者を見つけ出しては殺し、父親を殺した者を見つけ出しては殺し、ゾモを殺した者を見つけ出しては殺し、メルレを殺した者を見つけ出しては殺し、カリエルを殺した者を見つけ出しては殺し、テノを殺した者を見つけ出しては殺し、アテラの父親を殺した者を見つけ出しては殺し、アテラの母親を殺した者を見つけ出しては殺し、シノの父親を殺した者を見つけ出しては殺し、シノの母親を殺した者を見つけ出しては殺し、三人の若い竜人を殺した者を見つけ出しては殺し、
やがてアドマイアが我に返った時、城内には、もはや誰ひとり残っていなかった。
「これは……」
アドマイア一行が最上階へと辿り着くと、そこには高価な紙に走り書きされた、「屋外闘技場で待つ」との一文が残されていた。
「王からの果たし状か」
「よほど自信があるようだな」
「どうだかな」
「なんにせよ、行くしかあるまい」
アドマイアはアテラとサリエを抱えると、窓から飛び降り闘技場を目指した。
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「遅かったな、人間」
「数が多かったものでな」
アドマイアとアテラ、サリエは、堂々と闘技場の中心へと歩を進めた。
そこは巨大な円形型の闘技場だった。すでに客席は満員で、その中央には、鱗の生えた筋骨隆々の男が上半身裸で待ち構えていた。足元には、棘のついた巨大な鉄球が置かれている。
「貴様がこの国の王か」
「そうだ。この俺こそが竜人の王、ゲロイアだ」
その宣言と共に、客席から歓声が湧き上がる。観客の多くは、成人した男たちだった。
「人間、光栄に思え。貴様はこの俺、ゲロイア様が直々に相手をしてやる、数少ない存在なのだからな」
尊大な声が響く。それに対し、サリエが口を挟んだ。
「ゲロイアといったか、お前はなぜこのような方法をとる?」
「はあ? どういう意味だ」
「お前がアドマイアに惨たらしく負けるのは目に見えている。だというのに、なぜお前はわざわざ多くの民衆の前で恥を晒すことを選ぶのかと聞いている」
「俺をその他大勢の雑魚共と同じだと思ってるのか? そいつらは弱いから負けたんだ。俺はそいつらとは違う。俺はこの国で誰よりも強い!」
再び歓声が巻き起こる。アドマイアの隣でアテラが囁く。
「確かに……これまでの敵とは纏う気配が違う。油断するな、アドマイア」
ゲロイアはアドマイアに向かって言った。
「貴様のように頭のおかしい人間は都合がいい! 心置きなく惨殺できるからな!」
観客席からさらに、同意の歓声が上がった。それにアテラは憤り、目を見開いた。
「誰が頭のおかしい人間だ! アドマイアは正気のまま、貴様らを裁いているのだ!」
「いきなり他国に乗り込んできて、罪のない兵士たちを皆殺しにしておいて、頭がおかしいと以外になんと言えば?」
「罪のないだと? 貴様らが我々人間にどのような仕打ちをしてきたのか、知らないとは言わせない! 私にアドマイアほどの力があれば同じようにしていた!」
「アテラ、構わない」
アドマイアは静かに制した。
「アテラ、私はなんと言われようとも構わない」
「アドマイア! ……そ、そうだな。お前の品位は、あんな下劣な者の言葉ごときで揺るぎはしない!」