カナミ vs サキュバス
「君が東堂カナミやろ」
おいおいおいおいマジかよマジかよ……。
「ほな、チンポ出してもろて」
サキュバスを名乗るインキュバスに捕まっちまったよ。
深夜の
サキュバス♡らじお
「マジで勘弁してくれ俺今から寝るんだよ」
「ワイにもノルマがあるんや」
「じゃあなおさら帰ってくれ。俺チンコねえんだよ。なんで俺んとこ訪問しちまったんだよ」
「計器が君んとこに反応したんや」
「計器ぃ?」
「せや。これ見てみ」
「あ?」
「青寄りの紫になっとるやろ」
「……」
「これは君が男寄りの魂を持ってるってことを示してるんや」
「なあ、これの開発者誰だ?」
「ワイの上司やけど」
「じゃあそいつに伝えておけ。テメーはとんだドブカスチンコだってな」
「そんなこと言ったらワイがゲロカスまんこって言われてまう」
「知らねえよ。そんなもん作るなら、もうちっとトランスのこと勉強しとけって話だ」
「それはそうやな。ワイもトランスやけど、職場でもよくわかってもらえてないし、ワイもワイ自身のことがよくわからないんや」
「お前らんとこの事情はどうでもいいよ。いいから早く、下半身しまって帰ってくれ」
「チンポないならないでええで。精液はマストやないんや。なんかこう、エロい感じになったらいいらしいで。知らんけど」
「どういうシステムだよ……」
「昨今の風潮でな、ワイらの界隈も、物質至上主義はやめる動きになってるんや」
「はあ?」
「なんかエロい感じになると、この計器が反応して、いい感じになるらしいで」
「また計器かよ」
「せや。ワイらもな、昔は自分らの感覚を頼りに仕事しとったんやけど、この能力にも個人差があるわけや。そこで、計器が開発されて、みんなが安定して仕事できるようになったんやで」
「はぁ」
「君らもギターのチューニングする時にチューナー使うやろ? それと一緒や」
「あっそ……」
「まあ、ワイは絶対音感あるからチューナーなんか必要ないんやけどな」
「知らねえよ」
「まあとにかく、君も脱いでもろて」
「ざっけんな誰が脱ぐかよ」
「脱いでクレメンス」
「俺もう寝るからな」
「ああー、待って、待ってや。ワイこのままだと上司に怒られてしまうんや」
「知らねえよ」
「君の意思で脱いでもらわなあかんのや。同意のない性行為はアウトやからな」
「なんで家宅侵入はするくせにそこは守るんだよ」
「これがサキュバスの倫理なんや」
「そうかよ。でもここは人間のテリトリーだからな、テメー も人間の倫理に従え」
「君きついなあ」
「そもそもさ、俺んとこ来なけりゃ、お前はとっくに仕事を終えられてたはずだぜ。世界には性欲まみれのクソ人間が山ほどいるんだからよ。それなのに、なんでテメーはここに来たんだ?」
「ワイ性欲強い人間苦手なんや」
「んじゃもうサキュバスやめろよ」
深夜の
サキュバス♡らじお
「サキュバスは種族名や。やめようと思ってやめられるもんやないんやで」
「そうかよ」
「後生やから、なんとかエロい雰囲気出してくれんか」
「テメーでやれよ」
「ワイはもうチンポ出しとるで」
「チンコ出しただけでエロになるわけねえだろ」
「変やな。ほとんどの人間は、ワイがチンポ出しただけでエロい雰囲気になったんやけど」
「知らねえよ」
「お願いやから、君も脱いでくれんか。ワイもう寒いんや」
「つーか同意のない性行為はアウトなのに、同意なしに性器を見せるのはオーケーって、もうその倫理破綻してね?」
「会話してくれんか。まあでも、せやな、これがサキュバスの倫理なんや」
「ほーん、そりゃ大層ご立派な倫理だな」
「アカン。皮肉はアカン。ワイ直接的な暴言は平気やけど、皮肉は怖いんや」
「そうかよ」
「あっ。せや。言っておくけど、ワイ、チンポは使わない主義なんやで」
「はあ?」
「チンポついとるけど、ワイはサキュバスとしてやらしてもらってるからな。君みたいな人とも、チンポは使わないつもりや」
「知らねえよ」
「そうや。いつもは流れでいい感じになるから省略しとったけど、ワイが君と性行為する上で何をしようと思ってるか、説明しとかないとあかんな」
「いらねえいらねえ。説明されたところでやらねえよ」
「まずな、君とワイはキスをするんや。それから……」
「いらねえ〜〜〜〜っつってんだろ」
「ああー、布団もぐらんといて」
「早く帰れよ……」
「ワイにはノルマがあるんや……」
「あっそうだ。お前、委員長サマんとこ行けよ」
「委員長サマ?」
「あいつはいいやつだぜ。俺より断然、お前の話を真面目に聞いてくれるはずだ」
「そうなんか。でもその人って、どこに住んでるんや」
「知らねえ」
「知らないんか……」
「あとはおっさん……いやでも、おっさん彼氏いるからな……」
「なんや、君、もしかしてワイの相手探そうとしてくれとる?」
「ああ、探そうとした。でも過去形。俺の知り合い全滅だわ」
「君の知り合い二人しかおらんのか」
「そうだけど」
「なんか親近感感じるわ」
「勝手に感じるな」
「……お? なんか計器、ビンビンに反応しとるわ」
「はあ?」
「エロが高まってきとるで」
「あのさ、さっきから思ってたけど、その計器ぶっ壊れてね?」
「ほん?」
「そもそも始まりからおかしかったんだよ。計器、俺んとこに反応したんだろ? いくらお前が性欲強い人間苦手だからって、性欲ゼロの俺のところに来てもしゃーねえじゃん。性欲ゼロ人間に誘導する計器が、正しいわけがねえ」
「……そうかもしれん」
「その計器とやら、見せてみろよ。俺は 研究者だけど技術屋でもあるからな」
「ええけど」
「ふーん、これが計器な。なんだよ、”エロメーター”がマックスになってるじゃねえの」
「せやねん」
「じゃあもうぶっ壊れ確定だな。これ、叩いたらいい感じになっかな」
「君ほんとに技術屋なんか?」
「なあ、これ分解してもいい?」
「アカンアカン、分解はアカン。ていうか、分解もせんでええし、修理もせんでええ」
「は?」
「せっかくメーターがマックスになっとるんや。これでワイは、ノルマ達成したことにできる。故障してることに気がつかなければ、それは故障してないんと同じことや」
「なんだ、お前は欺瞞を選ぶのか?」
「せや。これがサキュバスの処世術や」
「そりゃご立派な処世術だな」
「ワイも生きるのに必死なんや」
「そうかよ。まあ勝手に満足して勝手に帰ってくれるんならなんでもいいや」
「ああ、君はもう寝とってええで。いい感じにPOWERが溜 まったら、勝手に帰るわ」
「そうかそうか、じゃあもう俺本当に寝るぜ」
「ええで。おやすみなー」
深夜の
サキュバス♡らじお
ピヨピヨピヨ。朝の小鳥が鳴いてやがる。時計は八時。仕事には余裕で間に合う時間。
床に、ピンク色の髪の毛が一本落ちてる。
「……これ、あいつのじゃん」
あれって、夢じゃなかったのか。一夜のファンタジー。奇跡のような、儚い出会い……
なわけねえだろ。二度と来んな。
ー終ー