恋人のやり方がわからない 12
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さて時間は飛び、今日は土曜日の朝です。パンケーキの日です。
朝の九時半の、さらに十五分前から、私は駅前でソワソワし続けていました。
早く来すぎたかな。
いやでも、家で待っている方が落ち着かなかったし。
服は濃いグレーのカーディガンにしました。サイズも少し大きめで、袖も少し長めです。
実はこの服、三日かけて検討したものでした。水曜日から金曜日にかけて、私は悠介くんに、「ごめんね、家の用事があるから」と一緒に過ごすのを断り続け、一人、服屋に向かったのです。なにしろ私には、休日に誰かと遊ぶ機会というものがありませんでしたから、まともな私服というのを持っていなかったのです。知識も経験もない中、やっとの思いで見つけ出したのが、このカーディガンなのでした。
悠介くんに、かわいいと思ってもらえるだろうか。
……。
かっこいいでも、いいですけど。
そうしてなんとなくスマホを眺めていたら、
「悪い、遅くなった」
と、背中側から悠介くんの声が聞こえてきました。
「悠介くん! 遅くなったって、まだ十分前……」
言いかけて、私は固まってしまいました。
悠介くん、かっこいい……!?
目の前の悠介くんは、紺のジャケットと白いTシャツを、まるで大人の男の人のように、サッと着こなしていました。
高校生って、こんなの着ていいの ですか……!?
「ゆっ、悠介くん、かっこいいね……」
「ああ、これ……父さんの借りてきた」
「お父さんの……!?」
「俺ちゃんとした服持ってないから……父さんに頼んで、一番いいやつ貸してもらった……」
「そうだったんだ……」
「あの、変か?」
「えっ」
変?
いやいやこの人は何を言っているのでしょうか!
「変なわけないよ! すごい似合ってるし……」
「本当か……?」
「……かっこいい」
「……!」
悠介くんはパッと顔を明るくさせると、「よかった」と安心したように言いました。
「そういう律は、やっぱおしゃれだな」
「え?」
やっぱおしゃれ?
「俺、おしゃれに見えてるの?」
「……? 見えてるけど……」
「俺、この服、三日かけて選んだんだよ!」
「そうなのか……?」
「家にまともな服なくて……だから、水曜からずっと、放課後に服屋ハシゴして、どうにか見つけたんだよ……」
「……! そうだったのか……じゃあ用事がある って言ってたのは……」
「服買うため……」
「……!!」
「悠介くんとのデートは、ちゃんとした格好で行きたかったから……」
「……!!!」
そう言うと、悠介くんは露骨に嬉しそうに「俺のために……」と口元を緩ませました。ああもうなんですかそれ。そんな顔をされたら、こっちまでニヤニヤしてしまうではないですか。
「ちょっと早いけど行こうぜ」
悠介くんは笑った顔のまま言いました。
「うん」
私はもはや、頬が緩んでいくのを隠しませんでした。
悠介くんも笑っていることですし、いいでしょう……。
57
電車に少し乗り、スマホのマップを見ながら少し歩いて、少し迷い、それから、少し早い時間にお店につきました。
「早めに出てよかったな」
「うん、もうちょっと遅かったら遅刻してたかも」
「迷ったもんな」
「ね。この辺の地理、ちょっと難しいよ」
そんなことを言っていたらちょうどいい時間になり、私たちはお店の中へ案内されました。パンケーキの甘い匂いがふわりと広がります。ベージュと茶色の可愛らしくもおしゃれな内装で……私にとっては、ほぼ異空間でした。
「なんか、かわいいところだな……」
「そうだね……」
「あれ思い出すな……なんか幼稚園の時……」
「うん」
「動物園で、初めてうさぎを抱いたの……」
「……なんで??」
「いや、なんつうか、可愛くて柔らかいものを壊さないように……みたいな……」
「なにそれ……」
悠介くん、やっぱり比喩がかなり変です。
「なんか、いいなここ」
悠介くんはメニューも開いていないのに、身体をソワソワさせています。
「そうだね……」
今からそんなのでは、パンケーキが来たらもっと楽しくなってしまうのではないでしょうか……。
私たちは濃い茶色のメニューを開きました。これも内装と同じく、なんとも可愛らしい……。
「結構色々あるんだね……」
「このフルーツがいっぱい乗ってるやつとか、うまそうだな……」
「まあ俺は、この期間限定のチョコのやつにするんだけどね」
私はメニューの一番大きな写真を指差しました。悠介くんは「だよな」と言って、再びメニューに視線を落としました。それでも悠介くんはまだ迷っているようで、
「俺もチョコのやつにするつもりだったんだけどな……このフルーツのやつ……」
とブツブツ言っています。
「フルーツのやつ 、気になるの?」
「ああ……でも、そのチョコのやつも……」
「じゃ、じゃあさ」
一口食べない?
……なんて、そんな提案して良いのでしょうか?
……。
……いいですよね、悠介くんなら!
「一口あげる」
言っちゃった。
すると悠介くんは「いいのか……!?」と、パッと顔を輝かせました。
可愛い。
「いいよ」
私はニヤニヤを抑えきれず、笑った顔で言いました。
そうして店員さんに注文し(悠介くんはメニュー名でちょっと噛んでいました)、待っている間に、悠介くんがお水を取ってきてくれました。
「なんかレモンの味する?」
「そういえばレモン浮いてたな」
「俺こういうの飲んだことないな」
「俺も。うまいなこれ」
しばらく待つと、私と悠介くん、二人同時にパンケーキがやってきました。
想像の三倍は大きいパンケーキでした。
「でか……」
「すごいね悠介くん……」
「なあこれ、崩すのもったいない……」
「そうだね」
「無常だな」
「そうだね……」
無常……。
……。
あっ、我々には文明があるではないですか。
「悠介くん、写真があるよ」
「……!」
そうして私たちは、それぞれのパンケーキにスマホを向けました。しかしこれが、なかなかに難しい。どうスマホを傾けても、お店やSNSで見るような綺麗な写真にはなりません。
「なんかむずいな」
悠介くんも同じことを思っているようです。
気づけば何分も格闘して、ホイップはじんわりと溶け始めており……。
「悠介くん、溶けてる!」
「うおっ、まじか」
私たちは急いで「いただきます」と言うと、パンケーキを切って口に放り込みました。
「……!」
急いで放り込んだ割には、異様に美味しい。
生地はふわふわで、ホイップは甘くて、チョコソースはやっぱり、私の大好きなチョコレートの味がして……。
「悠介くん、これ、美味しいよ」
普通に言ったつもりでしたが、自分でもわかるくらいに、私の声はいつもより一段、高くなっていました。悠介くんは小さく目を見開くと、どこかほっとしたような顔で、「よかった」と笑いました。それからごく自然な動きで、「こっちもうまいぞ」と、オレンジとホイップの乗ったパンケーキの欠片を私の口元に寄せてきました。私はそれを口に入れました。
「あ、美味し……」
美味しい。
……。
……でも今、何をやった?
……!!
今のは、かなりではないですか!?
まずい。急に、心臓が速く速くドキドキしてきました。私の顔が赤くなったのを見てか、悠介くんも、「あ、悪い、つい……」とドギマギし始めてしまいました。
「いや、いいよ、全然……」
「いいのか……!?」
「いい……」
「そうか……」
そのまま私たちは、互いに俯いてしまいました。ひたすらパンケーキを口に入れて、気づけば無言のまま完食し ていました。
「……」
「……」
なんでパンケーキ屋で、こんなに無言になるのですか!
「……うまかった」
「あっ、うん」
「そういや俺、チョコのやつもらってない」
「あっ……」
あー……、これは相当まずいやつです。どう謝罪しても足りない気がします。
が。
「まあいいけど」
悠介くんはそう言って笑いました。
「いいの……?」
「お前、うまかったんだろ?」
「まあ……」
「じゃあいい」
そう言って悠介くんは、レモンの味のする水に口をつけました。
58
次の月曜日、私の瞼は少しだけ重くなっていました。
別に大したことではありません。悠介くんとのおでかけ……パンケーキのことを思い出していたら、いつの間にか朝になっていたというだけのことです。日曜日もあったはずなのですが。
「おはよう悠介くん」
「はよ、律……なんか元気ねえ?」
「いや……」
あなたのことを考えていたら、眠れなくなってしまいました。
なんて、言ってみたら、悠介くんはかわいいと思ってくれるでしょうか……。
……。
いやいやいや、そんなの、私のキャラではありません……。
「ちょっと寝不足なだけ。大丈夫だから」
「本当か……?」
「本当、大丈夫だから心配しないで」
そう言って笑ってみましたが、悠介くんはまだ首を傾げていました。それから、「なんかあったら言えよ」と、心配そうに言いました。
心配してくれている……。
放課後私たちは並んで帰り……久々に、悠介くんの家に行くことになりました。(先週は大半の時間を服選びに使っていたわけですから……。)
家のドアを開けると、悠介くんのお母さんが、いつものようにヒョイっと顔を出してくれました。
「ただいま」
「お邪魔します」
これにもすっかり、慣れました。
「お茶持ってくるから……」
私は一人、悠介くんの部屋で待っていました。
今日も、手を繋ぐのだろうか。
かなり、楽しみかもしれない。
でも、せっかくだから、今日は何か違うことをやってみたい気がする。
デートも、楽しかったわけだから……。
……。
そうだ、二人おんなじ部屋で、別々のことをやってみるのはどうだろう。
あれって、かなり、仲の良い人同士の挙動として、よくあるやつなんじゃないか?
ちょっと待って、今ちゃんと調べてみてから……。
「お待たせ……律?」
「わっ、悠介くん……」
「お前スマホいじってんの珍しいな」
「あ、これはね……」
私は今考えていたことを伝えました。同じ部屋で、二人一緒にいながら別々のことをやってみるのは、世間一般でよく聞くものである……デートもうまくいったことだし、それも二人でやってみたらどうだろう、と 。
悠介くんは、「いいぜ、やってみるか」とすんなり納得してくれました。そうして私たちは、「別々に何かをやる会」を始めることにしました。
しかし何かをやると言っても、何をやればいいのか……。
……。
やっぱり、スマホでしょうか。
私は小さく「ちょっとベッド寄りかかるね」と言って、ベッドの角に背中を預けると、スマホのパズルゲームを開きました。なんとなくインストールしたもので、そこまでハマっているというわけでもなかったのですが……。
チラリと前を見ると、悠介くんもスマホを見ていました。しかし悠介くんも顔を上げ、私と目が合い……それから急にソワソワし始め、「やっぱそっち行ってもいいか?」と言ってきました。
ダメなわけがない!
私たちは二人で並んで、ベッドに寄りかかりました。二人で並んで、スマホをいじります。
……。
……気になるな。
いや、見ちゃ悪いか。
……。
……。
……いや、かなり気になる。
チラリと横を見ると、悠介くんはスマホで漫画を読んでいました。妙に細い線の絵柄で、男子高校生らしきキャラクターが二人、手を繋いでいるシーンで……あれ、悠介くん、前に漫画はあまり読まないと言っていませんでしたか?
……。
……何を読んでいるのか、聞きたい。
でも、人にスマホを見られるのは、多分、かなり嫌だろう。自分なら嫌だ。
私はバレないうちに、さっと視線を戻しました。
今はパズルに集中しよう。パズルに……。
……。
……。
無理だ! 気になる!
私は耐えきれず横を見ると、バチっと目が合ってしまいました。
「あ、えっと……」
「すまん、集中できなくて……」
「あっ、そうなの……?」
「俺、なんか、こういうの向いてないかも……」
そう言うと悠介くんは、恥ずかしそうに、手を頭の後ろへやりました。
いやそれは、私だって、同じですよ……。
「俺も向いてない……」
「そうか……?」
「俺、隣にいると、悠介くんのことが気になっちゃう……かも……」
「……そうか」
悠介くんは照れたように目線を泳がせると、少しだけ迷ったように口を開きかけては閉じて、それから、言いました。
「キスしたい」
……。
……ダメなわけが、ない。
「……いいよ」
私と悠介くんは小さく身体を起こして、そっと唇を触れさせました。それから何度も離して、触れさせて……。
「あっ……」
ずるりとバランスが崩れて、私の背中は床に小さく叩きつけられました。それに覆い被さるように、悠介くんは見下ろしていて……。
ねぇ、これって。
これって。
これって、まるで……。
怖い。
「律……」
「悠介く……」
「律、震えてる」
「えっ……」
気がつけば私の腕は、ガタガタと震えていました。
「悪かった、その……」
「あ……いや……」
悠介くんはそっと起き上がり、私の手のひらを握ってくれました。
「これなら平気か……?」
「うん」
私はそのまま、ぎゅっと握り返しました。
その手はやけに温かくて。
ああ、よかった、いつものだ。
いつもの悠介くんだ。
いつもの自分だ。
……それよりも。
なんだったんだ、あれは。
……。
「なぁ、俺んちバスケットゴールあるんだけど……」
「へっ?」
いきなり、何……!?
「バスケットゴール……?」
「いや、バスケなら平和かなって……」
「……」
「なんか、このままなのも嫌かな……みたいな……」
「……」
「悪い、変なこと言っ……」
「やりたい」
「えっ」
「やろう、バスケ」
「……ああ」
悠介くんは頷くと、「じゃあ、こっちだから……」と、のそのそと立ち上がりました。私ものそのそとついていきます。いつの間にか心臓は、いつものように静かになっていました。
「言ってたやつ、これ……」
靴を履いて庭に出ると、悠介くんの言うとおり、本当にバスケットゴールがありました。いや、初めて来た時も、少し見えていましたが……。
「本当にあったんだ……」
「ああ。不思議だよな」
悠介くんがそれを言うのですか。
「なんかボール二つあるから、適当に投げて遊ぼうぜ」
「うん」
そうして本当に、文字通り適当に投げて遊びました。
あ、入った。
外した。
また入った。
また入った。
あれ、意外と上手い?
「お前、上手いな……」
横から悠介くんが言ってきました。意外そうに目をパチクリとさせています。
「俺も、自分が上手いの初めて知った……」
私も言いました。すると悠介くんはわずかに口角を上げ、
「俺も上手いけど」
と、小さく歯を見せて笑いました。
あ、その笑い方、初めてでは……?
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さて、土曜日、朝の十時、十分前です。かなり早く家を出たつもりだったのですが、集合場所の駅にはすでに悠介くんがいました。はっ、早い!
今日の悠介くんは、濃いグレーのジャケットを着ていました。やっぱり、かっこいい。
一方の私は、ベージュがかったグレーのカーディガンを着てきました。これも例によってオーバーサイズで、パンケーキデート後の休みの日に、服屋をハシゴしてなんとか見つけたものです。
私が手を振ると、悠介くんはいつものように小さく手を上げてくれました。
「おはよう、悠介くん」
「おはよ、律」
いつもより挨拶が丁寧だ……!
私が「今日の服いいね」と言うと、悠介くんは「これはちゃんと、俺の小遣いで買ったやつ」と微妙に誇らしげな顔をして言いました。それは、誇っていいと思います!
「行こうぜ」
「うん」
私たちは改札に向かって、歩き出しました。
それから電車に乗り、目的の駅に着いて、さらに少し歩き……無事水族館に辿り着くことができました。そして無事、事前に買っておいたチケットで入場することができました。(実は正しくチケットが買えていたか、少々不安だったのです。)
「入り口、青くない?」
「青いな」
「水族館ってこんな青かったっけ」
「この水族館が特別青いんだろ」
「でも青すぎない?」
「青すぎだな」
気づけば私たちは、サンゴやらクマノミやらが泳ぐ、賑やかな水槽にいました。
「悠介くん、綺麗だね」
「そうだな」
「あの子とか、可愛い」
「どれだ?」
「あの青い子」
「確かに」
「……」
「……」
「……」
「……あいつ顔面白くね?」
「思った」
それからもう少しだけ歩き……悠介くんが目を止めたのは、サメのいる大きな水槽でした。
「サメってなんであんなかっこいいんだろうな……」
「悠介くん、サメ好きなの?」
「今好きになった」
「今……?」
「サメなんか、こう、まじまじ見ることないだろ……」
「まあ、確かに……」
「今かっこいいのに気づいた」
「なる ほど……?」
私も悠介くんに合わせて、サメに目をやりました。確かに他の魚たちよりシュッとしていて、かっこいい、かも……?
私はしばらくサメを眺めたのち、チラリと悠介くんを見ました。本当に、なんの気なしに見ただけでした。なのに。
あ。
悠介くんの目はやけにキラキラとしていて、それは、熱心な学者のようにも、無邪気な子供のようにも見えて……。
……。
……壊したくないな。
私はそっと、水槽に視線を戻しました。
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その後も私たちは続きを見て回りました。イワシの大群、深海魚、クラゲ、ペンギン、ホッキョクグマ……。
「お前、今日ずっとニコニコしてるな」
「えっ」
悠介くんはランチのポテトを食べながら、突然そう言いました。
「そんな、してた……?」
「してたよ、可愛かった」
そう言うと、悠介くんはポテトを口に入れて、「このポテトうまいな」と誤魔化すように言いました。
悠介くん、また自分で言っておいて、照れてる……。
私はパタパタと手で顔をあおぎました。ですがそんな言葉にいちいち驚くほど、鈍いつもりもありませんでした。なぜって、楽しいのは本当でしたから……!
「そういえば悠介くん」
「ん……?」
「俺たち今日、一枚も写真撮ってないよね?」
私がそう言うと、悠介くんは、「あー……」と数秒停止し、
「……そういえば、そうだな」
と、無の表情で言いました。
「あ〜〜〜、せっかくいい写真が撮れそうなところ、いっぱいあったのに……」
「夢中になりすぎたな……」
そう言って悠介くんは、珍しく悔しそうな顔をしました。
でも、今からでも遅くないでしょうか……。
「今、撮る?」
「ここで?」
「ここで」
「まあ撮らないよりはいいか」
「どうやって撮ればいいんだろ」
「……あの人たちの真似してみるか?」
そうして私たちは、ポテトとともに、いわゆる自撮りというものをしました。自撮りなんてものは初めてですから、うまくカメラ位置が定まらず、何分も格闘し、腕も痛めることになり……。
何枚か撮ったところで、ようやくピントの合った写真を撮ることに成功しました。
真顔でピースする悠介くんと、腕の痛みで引き攣る笑顔の私と、ポテト。
これが、二人の最初の写真とは……!
「なんか俺たちっぽくて面白いな」
悠介くんは私のスマホを覗いて言いました。
「そうかな……」
そうだろうか……。
いや、そうかも……。
「後でそれ、全部送ってくれないか?」
「全部って?」
「ブレたやつも全部ってこと」
「ええ? なんで……」
「なんか、思い出だから」
「なにそれ……」
悠介くんがそう言うなら、送りますが……。
まあでも確かに、私だけが見返してニヤニヤするのも、フェアではありませんね。
「いいよ、後でじゃなくて、今送ってあげる」
そうして私は、悠介くんに計五枚の写真を送信しました。悠介くんはそれに対して、にっこりと笑った三毛猫のスタンプを返してくれ……。
やっぱり悠介くんの猫ちゃん、可愛い……。