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恋人のやり方がわからない 12

56

 

 さて時間は飛び、今日は土曜日の朝です。パンケーキの日です。

 朝の九時半の、さらに十五分前から、私は駅前でソワソワし続けていました。

 早く来すぎたかな。

 いやでも、家で待っている方が落ち着かなかったし。

 服は濃いグレーのカーディガンにしました。サイズも少し大きめで、袖も少し長めです。

 実はこの服、三日かけて検討したものでした。水曜日から金曜日にかけて、私は悠介くんに、「ごめんね、家の用事があるから」と一緒に過ごすのを断り続け、一人、服屋に向かったのです。なにしろ私には、休日に誰かと遊ぶ機会というものがありませんでしたから、まともな私服というのを持っていなかったのです。知識も経験もない中、やっとの思いで見つけ出したのが、このカーディガンなのでした。

 悠介くんに、かわいいと思ってもらえるだろうか。

 ……。

 かっこいいでも、いいですけど。

 そうしてなんとなくスマホを眺めていたら、

「悪い、遅くなった」

 と、背中側から悠介くんの声が聞こえてきました。

「悠介くん! 遅くなったって、まだ十分前……」

 言いかけて、私は固まってしまいました。

 悠介くん、かっこいい……!?

 目の前の悠介くんは、紺のジャケットと白いTシャツを、まるで大人の男の人のように、サッと着こなしていました。

 高校生って、こんなの着ていいのですか……!?

「ゆっ、悠介くん、かっこいいね……」

「ああ、これ……父さんの借りてきた」

「お父さんの……!?」

「俺ちゃんとした服持ってないから……父さんに頼んで、一番いいやつ貸してもらった……」

「そうだったんだ……」

「あの、変か?」

「えっ」

 変?

 いやいやこの人は何を言っているのでしょうか!

「変なわけないよ! すごい似合ってるし……」

「本当か……?」

「……かっこいい」

「……!」

 悠介くんはパッと顔を明るくさせると、「よかった」と安心したように言いました。

「そういう律は、やっぱおしゃれだな」

「え?」

 やっぱおしゃれ?

「俺、おしゃれに見えてるの?」

「……? 見えてるけど……」

「俺、この服、三日かけて選んだんだよ!」

「そうなのか……?」

「家にまともな服なくて……だから、水曜からずっと、放課後に服屋ハシゴして、どうにか見つけたんだよ……」

「……! そうだったのか……じゃあ用事があるって言ってたのは……」

「服買うため……」

「……!!」

「悠介くんとのデートは、ちゃんとした格好で行きたかったから……」

「……!!!」

 そう言うと、悠介くんは露骨に嬉しそうに「俺のために……」と口元を緩ませました。ああもうなんですかそれ。そんな顔をされたら、こっちまでニヤニヤしてしまうではないですか。

「ちょっと早いけど行こうぜ」

 悠介くんは笑った顔のまま言いました。

「うん」

 私はもはや、頬が緩んでいくのを隠しませんでした。

 悠介くんも笑っていることですし、いいでしょう……。

 


 

57

 

 電車に少し乗り、スマホのマップを見ながら少し歩いて、少し迷い、それから、少し早い時間にお店につきました。

「早めに出てよかったな」

「うん、もうちょっと遅かったら遅刻してたかも」

「迷ったもんな」

「ね。この辺の地理、ちょっと難しいよ」

 そんなことを言っていたらちょうどいい時間になり、私たちはお店の中へ案内されました。パンケーキの甘い匂いがふわりと広がります。ベージュと茶色の可愛らしくもおしゃれな内装で……私にとっては、ほぼ異空間でした。

「なんか、かわいいところだな……」

「そうだね……」

「あれ思い出すな……なんか幼稚園の時……」

「うん」

「動物園で、初めてうさぎを抱いたの……」

「……なんで??」

「いや、なんつうか、可愛くて柔らかいものを壊さないように……みたいな……」

「なにそれ……」

 悠介くん、やっぱり比喩がかなり変です。

「なんか、いいなここ」

 悠介くんはメニューも開いていないのに、身体をソワソワさせています。

「そうだね……」

 今からそんなのでは、パンケーキが来たらもっと楽しくなってしまうのではないでしょうか……。

 私たちは濃い茶色のメニューを開きました。これも内装と同じく、なんとも可愛らしい……。

「結構色々あるんだね……」

「このフルーツがいっぱい乗ってるやつとか、うまそうだな……」

「まあ俺は、この期間限定のチョコのやつにするんだけどね」

 私はメニューの一番大きな写真を指差しました。悠介くんは「だよな」と言って、再びメニューに視線を落としました。それでも悠介くんはまだ迷っているようで、

「俺もチョコのやつにするつもりだったんだけどな……このフルーツのやつ……」

 とブツブツ言っています。

「フルーツのやつ、気になるの?」

「ああ……でも、そのチョコのやつも……」

「じゃ、じゃあさ」

 一口食べない?

 ……なんて、そんな提案して良いのでしょうか?

 ……。

 ……いいですよね、悠介くんなら!

「一口あげる」

 言っちゃった。

 すると悠介くんは「いいのか……!?」と、パッと顔を輝かせました。

 可愛い。

「いいよ」

 私はニヤニヤを抑えきれず、笑った顔で言いました。

 そうして店員さんに注文し(悠介くんはメニュー名でちょっと噛んでいました)、待っている間に、悠介くんがお水を取ってきてくれました。

「なんかレモンの味する?」

「そういえばレモン浮いてたな」

「俺こういうの飲んだことないな」

「俺も。うまいなこれ」

 しばらく待つと、私と悠介くん、二人同時にパンケーキがやってきました。

 想像の三倍は大きいパンケーキでした。

「でか……」

「すごいね悠介くん……」

「なあこれ、崩すのもったいない……」

「そうだね」

「無常だな」

「そうだね……」

 無常……。

 ……。

 あっ、我々には文明があるではないですか。

「悠介くん、写真があるよ」

「……!」

 そうして私たちは、それぞれのパンケーキにスマホを向けました。しかしこれが、なかなかに難しい。どうスマホを傾けても、お店やSNSで見るような綺麗な写真にはなりません。

「なんかむずいな」

 悠介くんも同じことを思っているようです。

 気づけば何分も格闘して、ホイップはじんわりと溶け始めており……。

「悠介くん、溶けてる!」

「うおっ、まじか」

 私たちは急いで「いただきます」と言うと、パンケーキを切って口に放り込みました。

「……!」

 急いで放り込んだ割には、異様に美味しい。

 生地はふわふわで、ホイップは甘くて、チョコソースはやっぱり、私の大好きなチョコレートの味がして……。

「悠介くん、これ、美味しいよ」

 普通に言ったつもりでしたが、自分でもわかるくらいに、私の声はいつもより一段、高くなっていました。悠介くんは小さく目を見開くと、どこかほっとしたような顔で、「よかった」と笑いました。それからごく自然な動きで、「こっちもうまいぞ」と、オレンジとホイップの乗ったパンケーキの欠片を私の口元に寄せてきました。私はそれを口に入れました。

「あ、美味し……」

 美味しい。

 ……。

 ……でも今、何をやった?

 ……!!

 今のは、かなりではないですか!?

 まずい。急に、心臓が速く速くドキドキしてきました。私の顔が赤くなったのを見てか、悠介くんも、「あ、悪い、つい……」とドギマギし始めてしまいました。

「いや、いいよ、全然……」

「いいのか……!?」

「いい……」

「そうか……」

 そのまま私たちは、互いに俯いてしまいました。ひたすらパンケーキを口に入れて、気づけば無言のまま完食していました。

「……」

「……」

 なんでパンケーキ屋で、こんなに無言になるのですか!

「……うまかった」

「あっ、うん」

「そういや俺、チョコのやつもらってない」

「あっ……」

 あー……、これは相当まずいやつです。どう謝罪しても足りない気がします。

 が。

「まあいいけど」

 悠介くんはそう言って笑いました。

「いいの……?」

「お前、うまかったんだろ?」

「まあ……」

「じゃあいい」

 そう言って悠介くんは、レモンの味のする水に口をつけました。

 



58

 

 次の月曜日、私の瞼は少しだけ重くなっていました。

 別に大したことではありません。悠介くんとのおでかけ……パンケーキのことを思い出していたら、いつの間にか朝になっていたというだけのことです。日曜日もあったはずなのですが。

「おはよう悠介くん」

「はよ、律……なんか元気ねえ?」

「いや……」

 あなたのことを考えていたら、眠れなくなってしまいました。

 なんて、言ってみたら、悠介くんはかわいいと思ってくれるでしょうか……。

 ……。

 いやいやいや、そんなの、私のキャラではありません……。

「ちょっと寝不足なだけ。大丈夫だから」

「本当か……?」

「本当、大丈夫だから心配しないで」

 そう言って笑ってみましたが、悠介くんはまだ首を傾げていました。それから、「なんかあったら言えよ」と、心配そうに言いました。

 心配してくれている……。

 放課後私たちは並んで帰り……久々に、悠介くんの家に行くことになりました。(先週は大半の時間を服選びに使っていたわけですから……。)

 家のドアを開けると、悠介くんのお母さんが、いつものようにヒョイっと顔を出してくれました。

「ただいま」

「お邪魔します」

 これにもすっかり、慣れました。

「お茶持ってくるから……」

 私は一人、悠介くんの部屋で待っていました。

 今日も、手を繋ぐのだろうか。

 かなり、楽しみかもしれない。

 でも、せっかくだから、今日は何か違うことをやってみたい気がする。

 デートも、楽しかったわけだから……。

 ……。

 そうだ、二人おんなじ部屋で、別々のことをやってみるのはどうだろう。

 あれって、かなり、仲の良い人同士の挙動として、よくあるやつなんじゃないか?

 ちょっと待って、今ちゃんと調べてみてから……。

「お待たせ……律?」

「わっ、悠介くん……」

「お前スマホいじってんの珍しいな」

「あ、これはね……」

 私は今考えていたことを伝えました。同じ部屋で、二人一緒にいながら別々のことをやってみるのは、世間一般でよく聞くものである……デートもうまくいったことだし、それも二人でやってみたらどうだろう、と。

 悠介くんは、「いいぜ、やってみるか」とすんなり納得してくれました。そうして私たちは、「別々に何かをやる会」を始めることにしました。

 しかし何かをやると言っても、何をやればいいのか……。

 ……。

 やっぱり、スマホでしょうか。

 私は小さく「ちょっとベッド寄りかかるね」と言って、ベッドの角に背中を預けると、スマホのパズルゲームを開きました。なんとなくインストールしたもので、そこまでハマっているというわけでもなかったのですが……。

 チラリと前を見ると、悠介くんもスマホを見ていました。しかし悠介くんも顔を上げ、私と目が合い……それから急にソワソワし始め、「やっぱそっち行ってもいいか?」と言ってきました。

 ダメなわけがない!

 私たちは二人で並んで、ベッドに寄りかかりました。二人で並んで、スマホをいじります。

 ……。

 ……気になるな。

 いや、見ちゃ悪いか。

 ……。

 ……。

 ……いや、かなり気になる。

 チラリと横を見ると、悠介くんはスマホで漫画を読んでいました。妙に細い線の絵柄で、男子高校生らしきキャラクターが二人、手を繋いでいるシーンで……あれ、悠介くん、前に漫画はあまり読まないと言っていませんでしたか?

 ……。

 ……何を読んでいるのか、聞きたい。

 でも、人にスマホを見られるのは、多分、かなり嫌だろう。自分なら嫌だ。

 私はバレないうちに、さっと視線を戻しました。

 今はパズルに集中しよう。パズルに……。

 ……。

 ……。

 無理だ! 気になる!

 私は耐えきれず横を見ると、バチっと目が合ってしまいました。

「あ、えっと……」

「すまん、集中できなくて……」

「あっ、そうなの……?」

「俺、なんか、こういうの向いてないかも……」

 そう言うと悠介くんは、恥ずかしそうに、手を頭の後ろへやりました。

 いやそれは、私だって、同じですよ……。

「俺も向いてない……」

「そうか……?」

「俺、隣にいると、悠介くんのことが気になっちゃう……かも……」

「……そうか」

 悠介くんは照れたように目線を泳がせると、少しだけ迷ったように口を開きかけては閉じて、それから、言いました。

「キスしたい」

 ……。

 ……ダメなわけが、ない。

「……いいよ」

 私と悠介くんは小さく身体を起こして、そっと唇を触れさせました。それから何度も離して、触れさせて……。

「あっ……」

 ずるりとバランスが崩れて、私の背中は床に小さく叩きつけられました。それに覆い被さるように、悠介くんは見下ろしていて……。

 ねぇ、これって。

 これって。

 これって、まるで……。

 

 怖い。

「律……」

「悠介く……」

「律、震えてる」

「えっ……」

 気がつけば私の腕は、ガタガタと震えていました。

「悪かった、その……」

「あ……いや……」

 悠介くんはそっと起き上がり、私の手のひらを握ってくれました。

「これなら平気か……?」

「うん」

 私はそのまま、ぎゅっと握り返しました。

 その手はやけに温かくて。

 ああ、よかった、いつものだ。

 いつもの悠介くんだ。

 いつもの自分だ。

 

 ……それよりも。

 

 なんだったんだ、あれは。

 

 ……。

 

「なぁ、俺んちバスケットゴールあるんだけど……」

「へっ?」

 いきなり、何……!?

「バスケットゴール……?」

「いや、バスケなら平和かなって……」

「……」

「なんか、このままなのも嫌かな……みたいな……」

「……」

「悪い、変なこと言っ……」

「やりたい」

「えっ」

「やろう、バスケ」

「……ああ」

 悠介くんは頷くと、「じゃあ、こっちだから……」と、のそのそと立ち上がりました。私ものそのそとついていきます。いつの間にか心臓は、いつものように静かになっていました。

「言ってたやつ、これ……」

 靴を履いて庭に出ると、悠介くんの言うとおり、本当にバスケットゴールがありました。いや、初めて来た時も、少し見えていましたが……。

「本当にあったんだ……」

「ああ。不思議だよな」

 悠介くんがそれを言うのですか。

「なんかボール二つあるから、適当に投げて遊ぼうぜ」

「うん」

 そうして本当に、文字通り適当に投げて遊びました。

 あ、入った。

 外した。

 また入った。

 また入った。

 あれ、意外と上手い?

「お前、上手いな……」

 横から悠介くんが言ってきました。意外そうに目をパチクリとさせています。

「俺も、自分が上手いの初めて知った……」

 私も言いました。すると悠介くんはわずかに口角を上げ、

「俺も上手いけど」

 と、小さく歯を見せて笑いました。

 あ、その笑い方、初めてでは……?

 


 

59

 

 さて、土曜日、朝の十時、十分前です。かなり早く家を出たつもりだったのですが、集合場所の駅にはすでに悠介くんがいました。はっ、早い!

 今日の悠介くんは、濃いグレーのジャケットを着ていました。やっぱり、かっこいい。

 一方の私は、ベージュがかったグレーのカーディガンを着てきました。これも例によってオーバーサイズで、パンケーキデート後の休みの日に、服屋をハシゴしてなんとか見つけたものです。

 私が手を振ると、悠介くんはいつものように小さく手を上げてくれました。

「おはよう、悠介くん」

「おはよ、律」

 いつもより挨拶が丁寧だ……!

 私が「今日の服いいね」と言うと、悠介くんは「これはちゃんと、俺の小遣いで買ったやつ」と微妙に誇らしげな顔をして言いました。それは、誇っていいと思います!

「行こうぜ」

「うん」

 私たちは改札に向かって、歩き出しました。

 それから電車に乗り、目的の駅に着いて、さらに少し歩き……無事水族館に辿り着くことができました。そして無事、事前に買っておいたチケットで入場することができました。(実は正しくチケットが買えていたか、少々不安だったのです。)

「入り口、青くない?」

「青いな」

「水族館ってこんな青かったっけ」

「この水族館が特別青いんだろ」

「でも青すぎない?」

「青すぎだな」

 気づけば私たちは、サンゴやらクマノミやらが泳ぐ、賑やかな水槽にいました。

「悠介くん、綺麗だね」

「そうだな」

「あの子とか、可愛い」

「どれだ?」

「あの青い子」

「確かに」

「……」

「……」

「……」

「……あいつ顔面白くね?」

「思った」

 それからもう少しだけ歩き……悠介くんが目を止めたのは、サメのいる大きな水槽でした。

「サメってなんであんなかっこいいんだろうな……」

「悠介くん、サメ好きなの?」

「今好きになった」

「今……?」

「サメなんか、こう、まじまじ見ることないだろ……」

「まあ、確かに……」

「今かっこいいのに気づいた」

「なるほど……?」

 私も悠介くんに合わせて、サメに目をやりました。確かに他の魚たちよりシュッとしていて、かっこいい、かも……?

 私はしばらくサメを眺めたのち、チラリと悠介くんを見ました。本当に、なんの気なしに見ただけでした。なのに。

 あ。

 悠介くんの目はやけにキラキラとしていて、それは、熱心な学者のようにも、無邪気な子供のようにも見えて……。

 ……。

 ……壊したくないな。

 私はそっと、水槽に視線を戻しました。




60

 

 その後も私たちは続きを見て回りました。イワシの大群、深海魚、クラゲ、ペンギン、ホッキョクグマ……。

「お前、今日ずっとニコニコしてるな」

「えっ」

 悠介くんはランチのポテトを食べながら、突然そう言いました。

「そんな、してた……?」

「してたよ、可愛かった」

 そう言うと、悠介くんはポテトを口に入れて、「このポテトうまいな」と誤魔化すように言いました。

 悠介くん、また自分で言っておいて、照れてる……。

 私はパタパタと手で顔をあおぎました。ですがそんな言葉にいちいち驚くほど、鈍いつもりもありませんでした。なぜって、楽しいのは本当でしたから……!

「そういえば悠介くん」

「ん……?」

「俺たち今日、一枚も写真撮ってないよね?」

 私がそう言うと、悠介くんは、「あー……」と数秒停止し、

「……そういえば、そうだな」

 と、無の表情で言いました。

「あ〜〜〜、せっかくいい写真が撮れそうなところ、いっぱいあったのに……」

「夢中になりすぎたな……」

 そう言って悠介くんは、珍しく悔しそうな顔をしました。

 でも、今からでも遅くないでしょうか……。

「今、撮る?」

「ここで?」

「ここで」

「まあ撮らないよりはいいか」

「どうやって撮ればいいんだろ」

「……あの人たちの真似してみるか?」

 そうして私たちは、ポテトとともに、いわゆる自撮りというものをしました。自撮りなんてものは初めてですから、うまくカメラ位置が定まらず、何分も格闘し、腕も痛めることになり……。

 何枚か撮ったところで、ようやくピントの合った写真を撮ることに成功しました。

 真顔でピースする悠介くんと、腕の痛みで引き攣る笑顔の私と、ポテト。

 これが、二人の最初の写真とは……!

「なんか俺たちっぽくて面白いな」

 悠介くんは私のスマホを覗いて言いました。

「そうかな……」

 そうだろうか……。

 いや、そうかも……。

「後でそれ、全部送ってくれないか?」

「全部って?」

「ブレたやつも全部ってこと」

「ええ? なんで……」

「なんか、思い出だから」

「なにそれ……」

 悠介くんがそう言うなら、送りますが……。

 まあでも確かに、私だけが見返してニヤニヤするのも、フェアではありませんね。

「いいよ、後でじゃなくて、今送ってあげる」

 そうして私は、悠介くんに計五枚の写真を送信しました。悠介くんはそれに対して、にっこりと笑った三毛猫のスタンプを返してくれ……。

 やっぱり悠介くんの猫ちゃん、可愛い……。




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