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恋人のやり方がわからない 11

51

 

 四時間目の授業が終わると、悠介くんはお弁当を持って、私の向かいに座りました。

 久しぶりに、悠介くんと向かい合って座ります。

「……」

「……」

「……なんか、緊張しちゃうな」

 つい、声が出てしまいました。

「……俺も」

 そう言って悠介くんは、ほんのりと顔を赤くさせました。

 ……前々から思っていたけれど、この人は肌が白いから、赤くなるとすぐにわかってしまう。

 ……。

 悠介くん復帰早々、何を考えているんだ!

 急に恥ずかしくなり、私の顔はじわじわと熱くなってきてしまいました。多分、赤くなっているのはバレバレでしょう。遠くから「りっちゃん先生がんばれ〜!」と声が聞こえてきますが、なんですかそれ、やめてください!

 私は頭を必死に回転させて、無難な話題を探しました。その結果出てきたのは、「今日も一緒に帰る……?」だなんて、あまりにつまらない確認でした。悠介くんは小さく目を見開いて、「そのつもりでいたけど……」と言い、私は「だ、だよね!」と、微妙に裏返った声で返しました。

 


 

52

 

 放課後になると、私は急いで荷物をまとめて、悠介くんの元へ行きました。別に急ぐ理由もなかったのですが、なんとなく、そうしていました。

「ゆっ、悠介くん! 俺、もう帰れるよ!」

「俺も今準備できたとこ。行こうぜ」

 そうして私たちは、並んで教室を出ました。廊下では「今日どうする?」という話をし、悠介くんの提案で公園に行くことになりました。悠介くんの家も一瞬だけ候補に挙がったのですが、悠介くん曰く「俺の家にはまだ風邪菌がいるかもしれねえ」とのことで、却下されました。さらに公園に着くまでには、りっちゃん先生になった経緯をもう一度説明し、もう一度、二人で首を傾げました。

「ねぇ、またアイス買おうよ」

 公園に着いて、私は自販機を指差しました。

「いいな」

 悠介くんは小さく笑いました。

「今度は俺が、悠介くんと同じの買ってみようかな」

「じゃあ俺が先に選ぶのか……」

「選ぶの苦手?」

「好きな味ねえからな……この前のチョコはうまかったけど」

 そう言うと、悠介くんは顎に手を当てて宙を見てしまいました。私はちょっとだけ面白くなり、

「じゃあ俺が選んであげようか」

 と、冗談のつもりで言ってみたのですが、悠介くんは、

「いや、自分で頑張る」

 と言い、

「頑張る……!?」

 と、私の方が逆に目をパチパチさせることになりました。

 自販機前に立った悠介くんは、やはり、妙に堂々としていました。

 そうして悠介くんは、結局一分ほど迷った末に、「まあ、これでいいか」とぶどう味を選んだのですが(前にもぶどうを選んでいませんでしたか……?)、私が同じくぶどう味のボタンを押すと、なぜか満足げな顔をしていました。

「どっか座りたいね」

「ああ……」

 そう、見回すと、二つ並んだブランコが空いているのが目に入りました。

 そういえば前に、高校生のカップルが隣同士のブランコに座ってるの、見たことがあったな……。

 ……。

「悠介くん、あそこに座らない?」

 私はブランコを指差して言いました。

「今は子供があんまりいないし、俺たちが使っても大丈夫だと思うんだけど……」

「お前、そこ心配するんだな」

「あ、いや、一応……」

「いいと思う。座ろうぜ」

 そう言って悠介くんはズンズンと歩いていくと、「小学生ぶりだな」と呟きながら、すっと座りました。続いて私も座ると、腰掛けた瞬間、ブランコからギッと大きな音が鳴りました。

「なんで悠介くん、そんなに静かに座れるの……?」

「なんでだろうな」

 本人は首を傾げていました。

「まあ食おうぜ」

「うん」

 頷いて、アイスを一口口に含むと……普通に、甘い味がしました。普通のアイスです。でも、美味しいものは美味しい。

「……悠介くん、これ、美味しいね」

 私が横を向いてそう言うと、悠介くんは「ああ」と頷きました。

 心なしか、さっきよりも満足げな顔をしている……!

 急に、胸のあたりがほかほかとしてきて、私は意味もなく小さくブランコを漕ぎました。悠介くんは可愛いし、アイスは美味しいし、ブランコは楽しい。チラと隣を見ると、悠介くんはさっきよりももっともっと満足げな顔をしており……逆に恥ずかしくなって、私はブランコを止め、コホンと一つ咳払いをしました。

 いつの間にか悠介くんは、アイスを食べ終えていました。私も最後の一口を食べ終えると、悠介くんはそれを待っていたかのように、「あのさ……」と口を開きました。

「ん?」

「そういえばなんだけどよ……」

「うん」

「お前って、俺たちが付き合ってること、周りに言ったのか……?」

「周り……?」

「なんかお前、急に周りと喋るようになってたろ……だから……」

 女子たちのことでしょうか。

 悠介くんは小さく首を傾げて、こちらを見ていました。そこに何かを責めるような雰囲気は、特にありませんでしたが……。

 私にはわかります。これは、ちゃんとした話です! ちゃんと、言っておかなければなりません!

「いや、言ってないよ!」

 私はちゃんと、否定しました。それから説明します。

「俺は知られても知られなくても、どっちでもいいんだけどさ、でも、悠介くんに確認取る前に勝手に言うのはどうなのかなって、思ったから……」

「そうなのか……!」

「だからみんなには『秘密』って言っといた!」

「秘密……?」

「そう。否定も肯定もせず……みたいな!」

「……それ、ほぼ言ってるようなもんじゃないか?」

「……」

 ギッと、ブランコが軋む音がしました。

「……あ、そ、そうだったかな……?」

「秘密は、だいぶ言ってるようなもんじゃね……?」

「うそ……?」

「多分……」

 ……。

 うそ!?

 つまり私は、皆に隠しているつもりで、実は悠介くんとの交際宣言をして回っていた……!?

 そんなの、もう、両手で顔を覆うしかできません。

「ああ〜〜〜っ、ごめん、悠介くん……」

「いや別にいいって……俺、みんなに付き合ってること知ってもらえる方が嬉しいし」

「そうなの……?」

「いやなんか、そのほうが……俺たちの間に、こう、割って入ってくる奴が出なそう、みたいな……」

「……!?」

「今俺恥ずかしいこと言ったか……!?」

「わ、わかんない……!」

 私は少しだけ両手を外しましたが、すぐに耐えられなくなり、また両手の中に沈んでいきました。

 悠介くん、そんなこと思ってたんだ……。

「律は……?」

「え……」

 私は両手から少しだけ顔を離して、チラリと悠介くんを見ました。悠介くんはやけに真剣な顔をしていて……。

「その、律はよ……」

「うん……」

「俺たちのこと、言いたいか……?」

「えっと……」

 私は両手を下ろして考えました。

 どうだろう。

 ……。

「悠介くんが言いたいなら、俺も言いたい……かな……」

「なんだそれ……」

「多分俺……どっちかって言うと、かなり言いたいかも……」

「そうなのか」

「友達……って言っていいかはわかんないけど、最近よく喋る女子たちがいて……」

「……ああ」

「あの子たち、俺たちが付き合ってるって知ったら、喜んでくれると思うんだよね……まだちょっとしか喋ってないけど……」

「ああ……」

「それで、俺と悠介くんが付き合ってることが喜ばれるって、普通に良いことな気がする……」

「律……」

 そこまで言って、私は照れてしまい、俯いてしまいました。

 ギィと控えめにブランコが鳴る音がしました。悠介くんのブランコでした。

「お前、そう思ってくれてたんだな……」

 悠介くんは、どこか嬉しそうな声で言いました。

「つってもあの女子たちは、もう知ってると思うけどな……」

「あっ、それはっ……うん、そうかも……」

 私はこれまでの挙動の数々を思い出して、カッと顔が熱くなりました。自分が何をしてきたか、全くわかっていないほど、私は愚鈍ではないつもりでした。

「でも、秘密って言うのと、付き合ってますってちゃんと言うのじゃ、全然違うから……」

 私は何か弁解するように言いました。それでも悠介くんは、

「そうだな」

 と優しい声で言ってくれました。

「明日、言ってみようかな」

「明日は休みだぞ」

「あっ……」

 今日、金曜日……。

「まあ、ゆっくりやってこうぜ」

「うん」

 そう言うと悠介くんは、小さく笑いました。

 あ、また笑顔だ……。

 


 

53

 

 土曜日の昼、私はベッドに寝転がって、スマホを凝視していました。

 どうやら世間には、デートというものがあるらしい。

 今朝のテレビの特集でやっているのを見て、ああそういえば、そんなものがあったなと思ったのです。

 なら、悠介くんとやってみたら……。

 ……。

 いや、いいのかそんなことをして?

 ……。

 いや冷静に考えて、ダメな理由の方がないはず……多分。

 コンビニに行くだけで、あんなに楽しかった。

 公園にいるだけでも。

 それならもっと遠くて変なところに行って、もっと変で、新しくて、可愛い悠介くんを見られたら。

 もっと、一緒の時間を過ごせたら。

 ……なんていうのは、望みすぎでしょうか。

 ……。

 ……考えるだけなら、いいですよね?

 私は「デート」「おすすめスポット」と検索し、出てくるページを次々と見漁りました。

「いやまだ、デートするなんて決まったわけじゃないけど……」

 そうです、そもそも悠介くんと、デートの話など少しもしていません。

 でも、もし、二人で外に行って、手を繋いで、一緒に何かを見たり、一緒に何かを食べられたり、何か楽しいことができたら……。

 ……。

「悠介くん、何が好きなんだろう……」

 あの人、好きな食べ物すらわからないんだよな。

「水族館あたりが無難かな……」

 水族館。かなりいい気がする。

「遊園地とかは……ちょっと、俺が恥ずかしいかな」

 悠介くんがはしゃぐところは、見てみたい気もするけれど……。

「プラネタリウム……そういうのもあるのか」

 これも結構、ありじゃない?

「美術館、神社、大きめの公園……」

 俺は好きだけど……悠介くんは?

「『おすすめのランチは!』……急にランチ出てきた」

 でもまあ、そうだよね。ランチ、大事だよね。

 うん……。

 などと、悩んでいたら、いつの間にかA4三枚の長大な資料が出来上がっていました。

「行きたいところの候補とメリットを並べただけなのに……!?」

 ……。

 とりあえず、悠介くんに見てもらいましょうか。悠介くんもまあまあ変な人ですから、このくらいで引いたりはしないでしょう。

「あ、その前に、悠介くんがデート行きたいか確認しないと……」

 つい私の欲望が先走ってしまいました。そもそも悠介くんがデートに行きたいのか……それが一番重要でした。ですがラインを開いた瞬間、気がつきました。

 これ、本当に聞いてもいいのかな。

 いきなりデートだなんて、引かれないかな。

 ……最初は考えるだけなんて、言っていたのに。

「……」

 でも悠介くんなら、受け止めてくれるかな。

 いや、それは期待しすぎなのかな。

 ……。

 私はアプリを閉じました。代わりに絵用の青いノートを開きました。しかし集中できず、今度は文庫本を開きました。ですがそれもダメで、次は物理の参考書を開きました。けれどどうにも落ち着かず、身体がソワソワして、何もかもが手につかなくて……。

 私はラインを開いて、打ち込みました。

 よければ今度、デートしない?

 ……と。

 それから深呼吸して、いいよね、いいよね、誤字はないよね、本当におかしくないよねと、何度も読み返して、七回ほど読み返したところで、えいやっと送信ボタンを押しました。

 ……。

 送ってから、「デートしない?」ではなく「おでかけしない?」の方がよかったかもしれないと後悔しましたが、私が送信取り消しするよりも前に既読がつき、

「いいよ、俺もしたい」

 と返ってきました。

 


 

54

 

 次の月曜日、私は上機嫌で、ふんふんと鼻歌を歌いたくなるのを我慢しながら登校しました。カバンには新品のクリアファイルと、A4三枚の印刷した資料が入っていました。いつもより少しだけ、カバンが重い気がします!

 教室に入ると、すでに悠介くんは席にいました。悠介くんはすぐに私を見つけて、小さく控えめに手を上げました。私は手を振ると、早速荷物を置いて、クリアファイルとともに悠介くんの席に向かいました。悠介くんは立ち上がりかけていましたが、「そっち行くよ」と私が言うと、そろりと座り直しました。

「あ、りっちゃん先生だ。おはよ〜」

 途中で女子に「おはよう」と手を振り、それから、悠介くんに向かってもう一度、「おはよう」と言いました。

「お前、女子と馴染んでるな」

「えっ、そう……?」

「なんか見てて微笑ましい」

「微笑ましい……!?」

「なんか、かわいい」

 そう言って悠介くんは、頬杖をついてふっと笑いました。なんですかそれ……!

「それより、その紙……」

「ああ、これ、印刷してきた資料だよ」

「資料……!?」

「ちょっと楽しくなっちゃって、いっぱい書いちゃったんだけど……でも、遊びに行く場所の候補とメリットまとめただけだから……」

「すげえ……!」

 悠介くんは珍しく、わかりやすく目をキラキラさせていました。もしかして、仕事ができる人間だと思ってもらえた……!?

 私は飛び上がりたくなるのを必死に抑えて、控えめに「えへ」とだけ笑うと、紙を出して、指差しながら、水族館、遊園地、プラネタリウム、美術館、神社、公園、動物園、ショッピングモール、食べ歩き、猫カフェ……と、順に説明していきました。悠介くんは真剣な顔で聞いてくれ、時折、「これいいな」「やってみたい」「こんなのもあるんだな」とコメントしてくれました。

 喜んで、くれている……!?

「っ〜〜〜!!」

 ああ!! 嬉しい!!

「なんか、全部楽しそうで迷うな……」

「そっ、そうだよね……俺も、どれがいいか決められなくて……」

「全部やろうぜ」

「えっ」

 なんですかその提案。

「そんな贅沢なこと、いいの?」

「いいだろ、俺は全部やりたいけど」

 ……。

 いいんですか、そんなこと!?

「リスト、すごい長いけど……」

「別にいいだろ」

「悠介くんがいいなら……俺もやりたい」

「じゃあまずは一番上の、水族館から行くか」

「うっ、うん!」

「あとさ……」

「うん?」

「俺も一応考えてきたんだけど……」

「……?」

 そう言うと悠介くんはポケットからスマホを取り出し、少しばかり操作して、

「これとかどうかと思ったんだけど」

 と、デカデカとしたホイップと大量のチョコレートソースがかかった、可愛らしくも凶悪なパンケーキを出してきました。赤いベリーも乗っていて、下側のパンケーキなんかは黄色くふんわりとしていて、正直、かなり美味しそうです。

「こ、これって……?」

「パンケーキ」

「それは見ればわかる……」

「なんか有名な? カフェのやつで、期間限定らしくて……」

「へぇ……」

「お前チョコレート好きだったよなと思って……」

「うん……」

「あとこれ、店の画像。なんか雰囲気もよくねって思って……」

「うん……!」

「どうだろ……?」

「うん……!!」

 ああ悠介くん、あなたはなんて人なのでしょう!

「俺、これすごく行ってみたい……!」

「本当か……!?」

 そう言うと悠介くんはパァッと顔を輝かせて、ほんのりとほっぺを赤くさせました。か、かわいい!?

「じゃあ最初のおでかけは、パンケーキと水族館にしよ!」

「ああ、そうだな」

 悠介くんは、小さく笑いました。ああ……嬉しい!

「これ、おんなじ日に両方行くのか?」

「忙しいかな?」

「いや、わかんねえ……」

「女子たちに聞いてみたらわかるかな……」

「女子?」

「いや、聞ける人があの人たちくらいしかいないから……」

「ああ……」

「あ、でも、今すごいおしゃべりしてる……邪魔しない方がいいかな……」

「多分大丈夫だろ」

「そうかな……?」

 そう言いながらチラチラと彼女たちの方を見ていたら、そのうちの一人と、バチンと目が合ってしまいました。するとその女子はニヤリと笑い、「りっちゃん先生と五十嵐くんがなんか見てるよ〜」とヒソヒソ(というには大きな)声で言い始めました。

 バレた!

 私は反射で顔を背けましたが、背けた先の悠介くんは、「なんか聞けそうじゃね?」などと言っており、結局、私たちは女子たちのところに突撃することになりました。私が前を歩き、悠介くんはのそのそと後をついてきます。

「あの、邪魔してごめんなんだけど、ちょっと、相談があって……」

 私がそう言うと、彼女たちは「え、なになに?」「五十嵐くんいるんだけど、やば」「いいけど〜」と一応興味を示してくれ……パンケーキと水族館は同日に実行可能なのかを聞いたら、「え、どの水族館?」「あそこめっちゃデカいよ」「無理じゃない?」と笑いながら言われました。

「ていうか、何? りっちゃん先生、五十嵐くんとデートすんの?」

 一人の女子が、からかうように言いました。他のみんなも、ニヤニヤとしています。

「あっ、その……」

 私は耳まで熱くなり、何も出ず……しかし悠介くんは平然と、

「そうだけど」

 と言い、女子たちの目をまんまるにさせました。女子たちは皆揃って、「わーぉ」などと言っています。

 なんですかその反応は!

「あっ、そうだ、俺たち付き合ってんだ」

 ついでの用事のように、悠介くんは、サラッと突然言いました。

 そんな、突然言う!?

 確かに、言っていいよと話はしましたが!

 女子たちはといえば、「キャ〜」「おめでと〜」「かわいい〜」などと言い始めます。小さく拍手をしている女子もいます。涙ぐむジェスチャーをする女子もいます。

 なんですかそれ! みんな揃って、なんなんですかそれ!

「りっちゃん先生、顔真っ赤〜」

 知ってます!

「我らがりっちゃん先生、お幸せに……」

 涙ぐまないでください!

「ねぇもうアレした?」

 きっ、聞くな!!!!!!!

 そんな折にホームルームのチャイムが鳴りました。助かった、本当に助かった。悠介くんの「またな」にも女子たちの「またね〜」にも、「うん、またね」と答えましたが、その声は自分でも驚くほどぶっきらぼうなものになっていました。

 


 

55

 

 お弁当の時間、いつものように、悠介くんはお弁当を持ってやってきました。そうして小さな声で、

「朝の大丈夫だったか?」

 と聞いてきましたが、私は、

「大丈夫……みんなおめでとうって言ってくれたし……」

 と、答えました。あんな感じではありましたが、祝福は祝福ですし……。

 ……まあ、それはいいのです。

 私と悠介くんはお弁当を食べながら、早速、デートの予定について話しました。女子たちの助言通り、行くのはパンケーキか水族館のどちらか片方だけです。どちらを最初にするのがいいだろう……というところが決まらなかったので、結局はジャンケンで決めました。私が勝ったらパンケーキにするという謎のルールです。そうして結局私が勝ったので、最初のおでかけはパンケーキになりました。

「予約ってした方がいいのか?」

「できるならした方がいいんじゃないかな」

「お、ここから予約できる」

「あ、じゃあ、しちゃおう」

 悠介くんのスマホを覗き込みながら、二人で予約の操作をしていきます。

「本当に人気なんだね、ほとんど埋まってるよ」

「俺らギリギリだったんじゃね?」

「そうかも……」

 ふと目線をあげると、いつものお弁当より、ずっと近くに、悠介くんの目がありました。

 まつ毛、長い……。

 綺麗……。

「……ん? どうした?」

「あっ……!」

 私は急いで、パッと顔を離しました。

「ごめんなんか見ちゃった!」

「あ、おう……」

「なんか近くて、綺麗だなって……」

「え……」

「だってほら、キスの時はそれどころじゃなくて、悠介くんのことちゃんと見られるって感じじゃなかったから……」

「おい」

「?」

「学校でその単語はまずいぞ!」

「あっ」

 私が咄嗟に周りを確認しようとすると、「見るな」と悠介くんから強い制止がかかりました。

「今見たら、終わるぞ……!」

「う、うん……!」

 何それ……と思いつつ、意味はちゃんとわかっていました。要は今、周りはキスという単語に驚きの目を向けており、その視線に耐えられるか? といえば、きっと私は耐えられない。だからそもそもその視線の存在を見なければいいということです。……ですよね、悠介くん!?

 であれば、今は悠介くんだけに集中するのです。悠介くん。今、私は、悠介くんだけの世界にいるのです。

 ……。

 今の、相当にロマンチックでは?




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