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ショコラと紅茶の魔法【17】

 あれから何日か、僕はずっとソワソワしてしまっていた。手紙が来るかどうか、気になってしまって仕方ない。

 きわめてセイコウリツの低い作戦だってことは、わかってるんだけど。

 今日は来てるかな、今日は来てるかな、と思って、放課後になるとまず一直線に図書館に行った。それで、いつも通り、トポロジー入門・2を開いた。

 そしたら、あった。

「あっ、あっ……あっ、あった……!?」

 お手紙が、返ってきていた! 僕は急いでお手紙を取ると、フランボワーズさんのところに走っていった。いや、途中までは走っていって、途中からは図書館で走っちゃいけなかったと思って小走りにした。

 いつもの位置に行くと、フランボワーズさんはまだ来ていなかった。それでソワソワしながら待っていると、ゆったりとした歩き方で髪を揺らしながらフランボワーズさんが歩いてきた。

「おや、ショコラ君。今日は早いな」

「あのっ、フランボワーズさん! 来てたんです、お手紙が!」

「何!?」

「僕、まだ中身見てないんですけど、トポロジー入門・2に挟んであったってことは、クォーツさんからの返事ってことかもしれないですよね!?」

「ああ、その可能性が高い……ショコラ君、ここに座って。一緒に読もうではないか」

 そうして並んで座って、お手紙を開いて、まず一番に名前のところを見たら……。

「最高だ。クォーツではないか」

 クォーツさんだった。


 ローズくん。

 今回もお手紙ありがとう。いもむしにほかほかしちゃうの、君らしい感性で素敵だね。君のそういう話、もっといっぱい聞きたいな。

 学校で倒れちゃった人、ローズさんっていう名前だったんだね。君のお手紙で初めて知ったよ。気の毒だけど、とにかく君じゃなくてよかった。

 君はこの事件について、どのくらい知っているのかな。俺もちょっと気になってきちゃった。君はそういうのに詳しそうだから、今度のお手紙で、知っていることを教えてくれると嬉しいな。お返事待ってるよ。

 クォーツ。


「釣れたな」

「釣れたんですか?」

「ああ。素知らぬ顔をしているが、明らかにわれわれがどこまで情報を握っているかに意識が向いている。前半はまだ恋文としての体裁を保っているが、後半は欲が出過ぎだ」

「はぁ……」

「良い良い。逃すのはますます惜しい。ならばこちらももう少しだけ餌をつけてみよう。入れてほしい内容をこちらで指定する。ショコラ君、やってくれるか?」

「はい!」

 それから僕はこんな手紙を書いて、フランボワーズさんに見せてみた。


 クォーツさん。

 クォーツさんは無事みたいでよかったです。ほっとしました。

 事件のことは、僕もあんまりよくわからないです。ただ、他にも何件か同じように人がたおれちゃったっていう話は聞きます。

 昔は花かぜっていう病気がはやって、それとしょうじょうが似ているっていう話も聞きました。でもうわさだと、薬で花を吐かせることもできちゃうとも聞きます。

 一体何が起こっているんでしょう? いろいろわからないと怖いなと思ってしまいます。

 クォーツさんも知っていることがあれば、教えてほしいです。

 ローズ。


「良いぞショコラ君。もはや恋文としての機能は消えたが、問題なかろう」

「い、いいんですか……?」

「良い。かなり良い。幼くかわいらしい文体を保ちつつ、薬という単語でFLOの存在に辿り着いていることを匂わせているのがポイントだな」

「はぁ……」

「もし相手がFLOに関わっているならば、この情報で大揺れする可能性が高い。これで相手がどう出るか、見てみようではないか」

 そう言ってフランボワーズさんはクツクツ笑った。

 それから次の日、こんな手紙が返ってきた。


 ローズくん。

 いろいろ教えてくれてありがとう。そっか、そんなことがあったんだね。

 特に薬で吐かせるっていうのが気になるね。君はどこでそんな噂を聞いたのかな?

 学校の中じゃそんな話聞いたことがなかったから、びっくりしちゃって。教えてくれると嬉しいな。

 お返事待ってるよ。

 クォーツ。


 僕とフランボワーズさんの二人で読んで、フランボワーズさんは「ふむ」と言うと、

「面白いように食いつくな。あくまでシラを切るつもりのようだが……」

 と言った。僕が「これ、クォーツさんが犯人なんじゃなくて、クォーツさんも犯人を探している探偵さんなのかも……っていうふうにも見えます……」と言うと、フランボワーズさんは「確かに文面だけならそう見えなくもない。しかし今その状況を仮定するメリットは薄い。われわれの調査軸はこれ一本ではないからな。仮にクォーツが犯人であるという予測が外れても、その時は味方が一人増えるだけだ」と、なんだか前にも聞いたようなことを言った。それから、

「せっかくなので、このあたりで紅茶も撒いておこう。目的は相手を揺らして情報を吐かせること。ここからはどんどんウソとハッタリを混ぜていくぞ」

 と笑った。


 それからどんどん、お手紙のやりとりは続いていった。


 クォーツさん。

 お返事ありがとうございます。

 薬で花を吐かせるっていうのは、知り合いの人に聞きました。どんな知り合いの人なのかは、個人情報なので、あんまり教えられないです。ごめんなさい。

 それよりも、クォーツさんがくれた紅茶って、どんなお茶だったんですか? とっても不思議な味がしたので、気になっちゃいました。またもう一回飲みたいなあっていうのは、わがままでしょうか?

 でも、僕、本当にまた飲みたいです。紅茶のこと、教えてくれるとうれしいです。(どこで買えるのかみたいなお話でも、ぜんぜん聞きたいです!)

 ローズ。


 ローズくん。

 お返事ありがとう。

 そっか、知り合いの人に聞いたんだね。その人は学校の外の人なのかな? (これくらいは聞いてもいいよね?)

 君に渡した紅茶は、ちょっと特別なだけのローズヒップティーだよ。俺がほんの少しだけ、おいしくなるように手を加えたんだ。だから俺にしか作れないんだよね、残念なことだけど。

 それともっと残念なことに、今はおいしくするための材料が手元にないんだ。だから、紅茶のことは諦めてもらうしかないかな。

 また機会があったら、いつかね。

 クォーツ。


 クォーツさん。

 お返事くれてありがとうございます。

 知り合いの人は、学校の外の人です。ちょっと怖いおじさん(お兄さんかな……)です。

 クォーツさんがくれた紅茶って、クォーツさんがおいしくなるように工夫してくれたんですね。僕のために手間をかけてくれたの、とっても嬉しいです。

 僕も何かお返ししたいです。クォーツさんは何か欲しいものはありますか?

 あと、僕もクォーツさんみたいに紅茶をおいしくする魔法が使いたいです!(変な言い方ですけど、でも、あれって魔法みたいなものですよね!)

 どうやっておいしくしたのか、教えてほしいなって思っています。お返事待ってます。

 ローズ。


 ローズくん。

 紅茶の件、どういたしまして。魔法だなんて、照れちゃうな。

 欲しいものだけど、今は特に思いつかないかな。気持ちだけもらっておくね、ありがとう。

 紅茶の工夫(魔法っていう方がいいかな?)だけど、ごめんね、それは教えられないんだ。いろいろ事情があってね、門外不出のワザ! ってやつなんだよね。

 それより、ひさびさに君の普段の話を聞きたいな。最近は放課後、何をしているのかな?

 教えてくれると嬉しいな。お返事待ってるよ。

 クォーツ。


 クォーツさん。

 お返事ありがとうございます。

 紅茶の魔法は門外不出なんですね……残念ですけど、事情があるなら仕方ないですよね。

 最近は僕は、図書館でいろんな本を読んでいます。昨日は、男の子が星空を走る鉄道に乗って、旅をする本を読みました。

 クォーツさんは、最近は何をしていますか?

 P.S. 紅茶の魔法には、FLOが関係していますか?

 ローズ。


 ローズくん。

 お返事ありがとう。

 ローズくんは最近図書館にいるんだね。その本は多分、俺も読んだことがあるやつだと思う。あれって、優しくて幻想的なお話ってことになってるけど、けっこう変なお話だよね。

 俺は最近、絵に挑戦してみてるんだ。ローズくんは絵、描いたことある? よければ次のお手紙で、ローズくんの似顔絵、描いてみてほしいな。

 楽しみにしてるよ。

 P.S. FLOっていうのは一体なんなのかな? 教えてくれる?

 クォーツ。


 クォーツさん。

 お返事ありがとうございます。

 クォーツさん、最近絵を描いているんですね。絵って楽しいですよね。

 僕も初心者ですけど、絵を描くのは好きです。今回、がんばって僕の似顔絵を描いてみました。どうでしょうか……? 感想をくれるとうれしいです。

 P.S. FLOというのは、吐いてしまったお花の裏社会での通称です。裏でFLOは高値で取引されているとのこと。最近校内で相次ぐ、生徒が花を吐いて倒れる事件、実際の花かぜと異なり、感染ではなくてんてんと起こる局所性、FLOを吐かせる薬の存在、そしてあなたの言う紅茶の魔法の門外不出性……それらを結びつけて、FLOを連想してしまいました。最近、僕の周りで、ある上級生に「特別な一杯」を出された後、花を吐いてしまった知り合いがいたもので……。

 ローズ。


 ローズくん。

 これは、君の似顔絵じゃないね?

 どうして君じゃなくて、フランボワーズの似顔絵を描いたのかな?

 それと、その「特別な一杯」を出したっていう上級生の名前を教えてくれる?

 お返事待ってるよ。

 クォーツ。


 親愛なるクォーツ殿。

 フランボワーズだ。なぜあれが私の自画像でないと思った?まるで描き手が誰であるかわかっているかのような口ぶりだな。

 もし君の予想する描き手の正体が、実際の描き手の正体と一致するならば、それはわれわれにとって非常に幸運なことだ。なぜなら彼には、上級生の知り合いがほとんどいないからな。そこから君を辿ることなど極めて容易だというわけだ。

 そして既に警察は君に当たりをつけて捜査を始めている。無数の星空の中にも一つ怪しく点滅するものがあれば、捜査は加速度的に進むというものだ。

 一つ有益な情報を教えよう。少し前から裏地下では覆面警察が張っている。既に君も、警察と話をしているかもしれないな。

 私に目をつけられたことが何を意味するか、よく噛み締めて味わうといい。

 それでは、互いにとって良い結果となることを祈る。

 偽ローズ、もとい、フランボワーズ。


 クォーツさん。

 あなたは、アプリコットさんですか?


 ローズくん。

 そういう君は、ショコラくんだね?




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