恋人のやり方がわからない 4
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「成瀬、今日も一緒に帰んね?」
「うん、いいよ」
今日も私たちは、並んで昇降口を出ました。これも、最近では日常になりつつありました。
相変わらず、今日も無言ですが……、
……。
あ、コンビニを過ぎた。
いつもならコンビニなど素通りするのに……今日はやけに気になりました。
あ、小学校を過ぎた。
二個目のコンビニを、過ぎてしまった。
……。
……なんだこれ。
本当に、いやに、通り過ぎていく建物が気になりました。
前まで、こんなもの、気になっていたでしょうか。
「……」
「……」
相変わらず、無言のままです。
あっ、コインランドリーを過ぎてしまった。
このままでは、T字路に着いてしまう。
もう道が見えてきてしまった。
もう、T字路に……。
T字路に。
「じゃあ、俺こっちだから」
……。
「……成瀬?」
「う、うん、また明日……」
そう言って私は、いつも通りに手を振りました。
そうして手を下ろして、背中をじっと、見送りました。
「……」
いや、早く自分も帰りなよ。
わかってるよ、でも身体が動かないんだよ。
なんでだよ。
知らないよ。
早く帰りなよ。
だから知らないって……。
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「成瀬、今日も」
「いいよ」
次の日も、私たちは二人並んで昇降口を出ました。
相変わらず、今日も無言。ですが……。
コンビニ……、
小学校……、
二個目のコンビニ……、
コインランドリー……、
T字路……。
今日も、終わってしまう……。
……。
終わってしまう。
……嫌かも。
「あのさ」
気づけば声が出ていました。
「向こうに公園があるんだけど、よければ寄ってかない……?」
気づけば五十嵐くんの家とは反対の方向を指差していました。
五十嵐くんは小さく目を見開くと、「いいのか?」と小さく聞き返してきました。
「いいよ」
私は答えました。
指と声が、微妙に震えていました。
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……いや、さっきのやり取り、微妙におかしかったですよね?
聞き間違いだったか……いや、そんな……。
まあいいか……。
「俺、こっちの道あんま来たことねえな……」
五十嵐くんは呟きました。
「こっちの方、意外と何もないもんね」
私は小さく返しました。
「そうなんだよな」
五十嵐くんもそう、小さく返しました。そこからまた、無言になりました。
さて。
勢いで誘ってしまいましたが、本当によかったのでしょうか。
でも、少し喋るようになったクラスメートと寄り道するなど、そう不自然なことではありませんよね?
そうですよね?
……。
公園では、数組の親子と小学生の群れが遊んでいました。
「五十嵐くん、あそこにアイスの自販機あるよ」
私は自販機を指して言いました。これならかなり、普通の同級生らしいのではないでしょうか。
「いいな」
五十嵐くんはそう言うと、財布を出しながら「食うか」と歩いてきました。
よし、まだうまくやれている。
自販機前に立った五十嵐くんは、妙に堂々としていました。そうして、十秒、二十秒、三十秒と悩み……。
「これにする」
と、最終的にはひどく無難なブドウ味を選びました。(いえ、無難なのは別にいいのですが……。)
「俺はこれ」
私は最初から決めていたので、チョコレート味を選びました。特に深い意味はなく、普通に、チョコレート味が好きなのです。
「お前、チョコ好きなのか?」
「うん。俺、いつもチョコ買っちゃうんだよね」
「そうなのか……」
そう言うと五十嵐くんは、聞き取れるか取れないかくらいの小さな声で、「かわいいな」と呟きました。
……かわいい。
また「かわいい」だ!
「あは、かわいくないよ!」
今回こそは、瞬時にそう言い返しました。元気に、笑いながら、自然な様子で。多分、うまくいった。男子式からかいコミュニケーションにはこう返すのが自然です……そうですよね!
私は五十嵐くんの反応を待ちました。
ですが五十嵐くんは、微妙に顔を固まらせ……、
「かわいいと思ったけどな」
と、ぼそりと言い直しました。
「え……?」
今度は私の方が固まってしま いました。なんで? どういうこと? 頭の中は一瞬でハテナだらけになりました。五十嵐くんは五十嵐くんで、「いや別に」などと言いながらそっぽを向いてしまい、私はどうしようもなくなってしまいました。
「……とりあえず、食おうぜ」
「……うん」
かわいいの件はモヤの中に消え……、
私たちは適当な空きスペースを見つけて、アイスを食べました。
普通に、美味しい。
けれどそれより、隣が気になって仕方がない。
……。
気にしないようにしよう。
気にしないように……。
……なんて、今更できるのか?
だって。
気にしないようにしようなんて、今まで何回もやってきたじゃないか。
それで失敗して、今こうなっているんじゃないか。
知ってる。
かなり知っている。
それなのに今更……。
今更……。
「お前、アイス垂れてるぞ」
「えっ」
気がつくと私の指は、溶けたアイスでべっとりとしていました。
「あっ、ぼーっとしてた……」
「拭いてやる」
「えっ?」
そう言うと五十嵐くんは、すっとポケットからハンカチを出して強引に私の指を掴むと、指の間まで、いやに丁寧に拭き始めました。私は意味がわからず、ただぼんやりしてしまい、黙ってその様子を見ていることしかできませんでした。
「大体拭けたか……お前、後で手、洗ったほうがいいぞ」
「……」
「……成瀬?」
「あっ、うん、ありがとう」
私はぼんやりした頭のまま、お礼だけは、なんとか言いました。
五十嵐くんは「おう」と言うと、そのままハンカチをポケットに仕舞いました。
……何が起こったんだ、今?
五十嵐くんの行動にはびっくりした。それは、確実だった。
けれど本当にびっくりしたのは。
「なんか、五十嵐くんには、触られても平気だった……」
これでした。
隣から、「えっ……?」と声が聞こえてきます。
「あっ」
「え……」
「……」
そこで初めて、声が出ていたことに気がつきました。
そこからじわじわと、顔から煙が出てしまうくらいに、全身が熱くなっていきます。
「今の、忘れて……」
私は蚊の鳴くような声で言いました。
「できたらやる……」
五十嵐くんも、消えそうな声で言いました。
「本当に忘れて……」
私はもう一度言いましたが、もう一度言ったせいで、より本気であるような形になってしまったのは、言ってから気づき……。
「そろそろ遅くなってきたし、帰ろうか……」
私は、明るい空の下で言いました。
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「今日、俺、何言っちゃったんだろ……」
かなり、かなりなことを言った気がする。
なんか、五十嵐くんには、触られても……、
だなんて!!
「っ〜〜〜!!」
一人ベッドの上で、強く枕を握りしめました。
恥ずかしい。こんなの恥ずかしすぎる。
五十嵐くんには……、
……、
なんて、自分は、一体なんの告白をしたんだ?
「引かれたかな……」
その日は結局、こちらから強引に終わらせてしまったわけで。
結局最後まで、五十嵐くんの顔は、ちゃんと確認しなかったわけで。
だから五十嵐くんが何を思っていたのか、全然わからないわけで。
「……」
明日、五十嵐くんのこと、本当に見られないかもしれない。
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……などと思っていたのですが。
「成瀬、今日も一緒に帰んね?」
「……」
「成瀬……?」
「あっ、いいよ、帰ろう」
五十嵐くんは平然と誘ってきました。
昨日のことを、何も覚えていないのでしょうか。
それとも……。
……それとも、なんでしょうか。