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恋人のやり方がわからない 4

16

 

「成瀬、今日も一緒に帰んね?」

「うん、いいよ」

 今日も私たちは、並んで昇降口を出ました。これも、最近では日常になりつつありました。

 相変わらず、今日も無言ですが……、

 ……。

 あ、コンビニを過ぎた。

 いつもならコンビニなど素通りするのに……今日はやけに気になりました。

 あ、小学校を過ぎた。

 二個目のコンビニを、過ぎてしまった。

 ……。

 ……なんだこれ。

 本当に、いやに、通り過ぎていく建物が気になりました。

 前まで、こんなもの、気になっていたでしょうか。

「……」

「……」

 相変わらず、無言のままです。

 あっ、コインランドリーを過ぎてしまった。

 このままでは、T字路に着いてしまう。

 もう道が見えてきてしまった。

 もう、T字路に……。

 T字路に。

「じゃあ、俺こっちだから」

 ……。

「……成瀬?」

「う、うん、また明日……」

 そう言って私は、いつも通りに手を振りました。

 そうして手を下ろして、背中をじっと、見送りました。

「……」

 いや、早く自分も帰りなよ。

 わかってるよ、でも身体が動かないんだよ。

 なんでだよ。

 知らないよ。

 早く帰りなよ。

 だから知らないって……。

 


 

17

 

「成瀬、今日も」

「いいよ」

 次の日も、私たちは二人並んで昇降口を出ました。

 相変わらず、今日も無言。ですが……。

 コンビニ……、

 小学校……、

 二個目のコンビニ……、

 コインランドリー……、

 T字路……。

 今日も、終わってしまう……。

 ……。

 終わってしまう。

 ……嫌かも。

「あのさ」

 気づけば声が出ていました。

「向こうに公園があるんだけど、よければ寄ってかない……?」

 気づけば五十嵐くんの家とは反対の方向を指差していました。

 五十嵐くんは小さく目を見開くと、「いいのか?」と小さく聞き返してきました。

「いいよ」

 私は答えました。

 指と声が、微妙に震えていました。

 


 

18

 

 ……いや、さっきのやり取り、微妙におかしかったですよね?

 聞き間違いだったか……いや、そんな……。

 まあいいか……。

「俺、こっちの道あんま来たことねえな……」

 五十嵐くんは呟きました。

「こっちの方、意外と何もないもんね」

 私は小さく返しました。

「そうなんだよな」

 五十嵐くんもそう、小さく返しました。そこからまた、無言になりました。

 さて。

 勢いで誘ってしまいましたが、本当によかったのでしょうか。

 でも、少し喋るようになったクラスメートと寄り道するなど、そう不自然なことではありませんよね?

 そうですよね?

 ……。

 公園では、数組の親子と小学生の群れが遊んでいました。

「五十嵐くん、あそこにアイスの自販機あるよ」

 私は自販機を指して言いました。これならかなり、普通の同級生らしいのではないでしょうか。

「いいな」

 五十嵐くんはそう言うと、財布を出しながら「食うか」と歩いてきました。

 よし、まだうまくやれている。

 自販機前に立った五十嵐くんは、妙に堂々としていました。そうして、十秒、二十秒、三十秒と悩み……。

「これにする」

 と、最終的にはひどく無難なブドウ味を選びました。(いえ、無難なのは別にいいのですが……。)

「俺はこれ」

 私は最初から決めていたので、チョコレート味を選びました。特に深い意味はなく、普通に、チョコレート味が好きなのです。

「お前、チョコ好きなのか?」

「うん。俺、いつもチョコ買っちゃうんだよね」

「そうなのか……」

 そう言うと五十嵐くんは、聞き取れるか取れないかくらいの小さな声で、「かわいいな」と呟きました。

 ……かわいい。

 また「かわいい」だ!

「あは、かわいくないよ!」

 今回こそは、瞬時にそう言い返しました。元気に、笑いながら、自然な様子で。多分、うまくいった。男子式からかいコミュニケーションにはこう返すのが自然です……そうですよね!

 私は五十嵐くんの反応を待ちました。

 ですが五十嵐くんは、微妙に顔を固まらせ……、

「かわいいと思ったけどな」

 と、ぼそりと言い直しました。

「え……?」

 今度は私の方が固まってしまいました。なんで? どういうこと? 頭の中は一瞬でハテナだらけになりました。五十嵐くんは五十嵐くんで、「いや別に」などと言いながらそっぽを向いてしまい、私はどうしようもなくなってしまいました。

「……とりあえず、食おうぜ」

「……うん」

 かわいいの件はモヤの中に消え……、

 私たちは適当な空きスペースを見つけて、アイスを食べました。

 普通に、美味しい。

 けれどそれより、隣が気になって仕方がない。

 ……。

 気にしないようにしよう。

 気にしないように……。

 ……なんて、今更できるのか?

 だって。

 気にしないようにしようなんて、今まで何回もやってきたじゃないか。

 それで失敗して、今こうなっているんじゃないか。

 知ってる。

 かなり知っている。

 それなのに今更……。

 今更……。

「お前、アイス垂れてるぞ」

「えっ」

 気がつくと私の指は、溶けたアイスでべっとりとしていました。

「あっ、ぼーっとしてた……」

「拭いてやる」

「えっ?」

 そう言うと五十嵐くんは、すっとポケットからハンカチを出して強引に私の指を掴むと、指の間まで、いやに丁寧に拭き始めました。私は意味がわからず、ただぼんやりしてしまい、黙ってその様子を見ていることしかできませんでした。

「大体拭けたか……お前、後で手、洗ったほうがいいぞ」

「……」

「……成瀬?」

「あっ、うん、ありがとう」

 私はぼんやりした頭のまま、お礼だけは、なんとか言いました。

 五十嵐くんは「おう」と言うと、そのままハンカチをポケットに仕舞いました。

 ……何が起こったんだ、今?

 五十嵐くんの行動にはびっくりした。それは、確実だった。

 けれど本当にびっくりしたのは。

「なんか、五十嵐くんには、触られても平気だった……」

 これでした。

 隣から、「えっ……?」と声が聞こえてきます。

「あっ」

「え……」

「……」

 そこで初めて、声が出ていたことに気がつきました。

 そこからじわじわと、顔から煙が出てしまうくらいに、全身が熱くなっていきます。

「今の、忘れて……」

 私は蚊の鳴くような声で言いました。

「できたらやる……」

 五十嵐くんも、消えそうな声で言いました。

「本当に忘れて……」

 私はもう一度言いましたが、もう一度言ったせいで、より本気であるような形になってしまったのは、言ってから気づき……。

「そろそろ遅くなってきたし、帰ろうか……」

 私は、明るい空の下で言いました。

 


 

19

 

「今日、俺、何言っちゃったんだろ……」

 かなり、かなりなことを言った気がする。

 なんか、五十嵐くんには、触られても……、

 だなんて!!

「っ〜〜〜!!」

 一人ベッドの上で、強く枕を握りしめました。

 恥ずかしい。こんなの恥ずかしすぎる。

 五十嵐くんには……、

 ……、

 なんて、自分は、一体なんの告白をしたんだ?

「引かれたかな……」

 その日は結局、こちらから強引に終わらせてしまったわけで。

 結局最後まで、五十嵐くんの顔は、ちゃんと確認しなかったわけで。

 だから五十嵐くんが何を思っていたのか、全然わからないわけで。

「……」

 明日、五十嵐くんのこと、本当に見られないかもしれない。


 

20

 

 ……などと思っていたのですが。

「成瀬、今日も一緒に帰んね?」

「……」

「成瀬……?」

「あっ、いいよ、帰ろう」

 五十嵐くんは平然と誘ってきました。

 昨日のことを、何も覚えていないのでしょうか。

 それとも……。

 ……それとも、なんでしょうか。




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